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鴨長明の「方丈記」は、なぜ片仮名主体の和漢混淆(交)文で書かれたのか

鴨長明

 紀貫之は、「男もすなる日記」と、あたかも自分が女のように「仮名文字」で土佐日記(935年ごろ)を書いた。仮名文字は女性の文字だったのだ。それから約300年後の1212年、「鎌倉殿の13人」の頃、鴨長明は、片仮名主体の漢字混じり文で「方丈記」を書いた。片仮名は、漢文を読むための補助として生まれた。そして鴨長明は、「片仮名主体で「方丈記」を書いた。

 私が子供の頃(昭和30年代から40年代)、1ドルは360円(固定)。日本製の商品は、まだまだ2流品。1流品はヨーロッパやアメリカなどの外国モノという意識が強かった。

 少なくない商品が、もしかすると舶来物と同等品質、あるいはそれ以上のものがすでに日本でも作られているのに、日本製品はなんとなく2流品。「日本人は、なぜ外国崇拝に陥りやすいのか」と嘆く声も聞かれた。

 同じようなことが、古代日本にも見られた。ただし、古代日本において崇拝の対象は中国。
 江戸時代の本居宣長は、『自分たちの文化が侵略されていることに気づかない』ことを案じ、『中国文化崇拝』を『漢意(からごころ)』と言って嘆いた。

 古代、安易な『漢意』崇拝を脱し、日本文化の確立に貢献したものの一つに、『仮名文字』や『片仮名文字』がある。

 「『カタカナ文字』表記文学の傑作に、鴨長明の『方丈記』がある。

目次

「漢意(からごころ)」に囚われない「和魂」の確立

Amazon:鴨長明の方丈記

鴨長明の「方丈記」は、カタカナに漢字が混じった表記法(和漢混交文)

 鴨長明の「方丈記」は、『鎌倉殿の13人』とほぼ同時期に書かれた。
 鴨長明自身は、西暦1155年(久寿2年)~1216年(建保3年)に生きた人である。『方丈記』が成立したのは、1212年(建暦2年)

 カタカナ中心に漢字を交えて書いた文体、和漢混交文で書かれた文芸の祖といわれる。日本三大随筆の一つであり、書かれた時期は三大随筆最古の仮名文字文学「枕草子」(1002年執筆)の210年後。

 『方丈記』は、

ユク河ノナカレハタエスシテシカモゝトノ水ニアラス

 日本語の語順どおりに書かれている。カタカナ中心に漢字が混じる文体によって、鴨長明は何を表現したかったのか、気になるところだ。

文芸が、日本語語順で書かれるようになるまでの、大まかな時代変遷

 民族が使う言葉は、その民族の思考法、そして「民族としての在り方」に深く関わる。
 古代、「漢意(からごころ)・中国文化崇拝主義」にとらわれていた我々の先祖が、漢意至上主義から、徐々に自分の国の言葉としていった過程を、西尾幹二先生は、著書『国民の歴史』の中で次のように解説している。

漢字伝来『応神天皇の15年』

 ヤマト王権に帰化した人々が、漢字をもたらした。中学校歴史教科書には、

この時期(4~5世紀を指す),戦乱をのがれるため,中国や朝鮮半島から倭国に移住した人々を渡来人とよびます。渡来人は,土器や鉄器の製造や機織,漢字など,毎日の生活に役だっ多くの技術を伝えました。

帝国書院教科書より

また、「高校の日本史を復習する本」には、

5世紀ごろには、王仁(わに)が『論語』『千字文』をもたらしました。これが漢字の伝来です。王仁の子孫は日本に留まり西文氏(かわちのふみうじ)となり、文筆によってヤマト政権に仕えました。

「高校の日本史を復習する本」:(株式会社KADOKAWA)p40

 上記の王仁が日本に『千字文』を伝えたのは、応神天皇の15年とされている。ただし、応神天皇の15年が、西暦何年に当たるかはよく分からない。カドカワのこの本が、5世紀と限定しているのは間違いでは無いが、確定された年代というわけでもない。

 応神天皇を3世紀の天皇とする説、4世紀の天皇とする説などがある。
 また、漢字伝来は、6世紀の半ば前(538年)だとする説もある、という程度だ。

『6世紀末から7世紀初頭の記述法』(聖徳太子の憲法十七条)

 聖徳太子の『十七条憲法』が純粋な漢文ではないけれども、いささか漢文もどきになっていた。

国民の歴史(西尾幹二著・産経新聞社)p109より

 『和を以って貴しとなす』の部分は以下のように書かれる。日本独自の発想を、純粋な漢文では無いが、漢文にごく近い表記法で表現されている。

『日本書紀』第二十二巻 豊御食炊屋姫天皇 推古天皇十二年
 夏四月丙寅朔戊辰、皇太子親肇作憲法十七條。
一曰、以和爲貴、無忤爲宗。人皆有黨。亦少達者。以是、或不順君父。乍違于隣里。然上和下睦、諧於論事、則事理自通。何事不成。

  十七条の憲法は、推古天皇の12年(604年)に制定されたとされる。

『6世紀~7世紀にかけての記述法』(聖徳太子のお母さんの名前の記述など)

孔部間人公主/穴穂部間人皇女

国民の歴史(西尾幹二著・産経新聞社)p106より

 この記述に関して、西尾氏は次のように分析されている。

 仮名文字表記以前の、6世紀から7世紀にかけて、既に「訓読み」が見られる。

 だが、「アナ」という訓読みに対応する漢字は、まだ確立してはいなかったらしいことが読み取れる。

『7世紀末』の敬語表現

為父母作奉菩薩(692年)

国民の歴史(西尾幹二著・産経新聞社)p107より

 この文章には『奉』という文字が使われている。『たてまつる』である。

「父母のために菩薩をつくり奉る」

 敬語は中国語には無い。
 その敬語を文章の中に入れて使っている。この文章は、692年のモノで、712年に完成したとされる『古事記』より古い。

 さらに、

菩薩作奉

国民の歴史(西尾幹二著・産経新聞社)p107より

 この文になると、動詞が菩薩の後に配置されている。日本語語順で書かれるようになった。

鼻於黒子

国民の歴史(西尾幹二著・産経新聞社)p107より

 この文は、726年の例。墾田永年私財の法の3年後。

『鼻黒子』

 「於」(に)という助詞を、文章の中に入れてきた。

8世紀の表記法『阿治/佐米/乃利/鰯

 さらに西尾氏は、次の例を挙げる。

阿治/佐米/乃利/鰯
八世紀になると、こうした訓の定着した漢字がどんどん増えてくる。

国民の歴史(西尾幹二著・産経新聞社)p106より

 それぞれ、「アジ」「サメ」「ノリ」と読む。そして、注目すべきは、最後の「鰯」『鰯』という漢字は、日本人がつくった漢語だという。

 8世紀には、『訓』が定着した漢字が増え、万葉仮名となっていった。

万葉集の表記法(8世紀?)

 万葉集は、7世紀から8世紀にかけて編まれ、成立は759年以降だろうとされる日本最古の歌集。

忘目八風毛吹額相見鶴鴨(万葉集より)

国民の歴史(西尾幹二著・産経新聞社)p107より

 「忘れめや風も吹かぬか相見つるかも」と読む。

 これを見て、クスッと笑いが出た。
 日本人のユーモアと思考の柔軟性を感じる。

 「吹かぬか」の「ぬか」は、「額」の字を当てている。

 傑作は、「つるかも」を「鶴鴨」で表現しているところ、「アハハ」である、すごい。

ここの字はすべてあらかじめ訓読みに成功していた文字

国民の歴史(西尾幹二著・産経新聞社)p107より

 8世紀の中頃には、漢字の「訓読み」が定着し、「漢字」は、だいぶ日本化された文字となりつつあった。

漢字そのものからの脱皮

 やがて漢字そのものからの脱皮が始まる。平仮名と片仮名の誕生である。いうまでもなく平仮名は草書体を崩していってできた。
 ~女性の書き言葉であった。

国民の歴史(西尾幹二著・産経新聞社)p107より

 漢字「訓」で読む文化は定着したが、まだまだ男は漢字を用いる。しかし、女性の発想は男子を越えていて、書き言葉そのものを変えていく。仮名文字は、女性の柔軟な発想から生まれた。

 では、片仮名はどうだったか。

国民の歴史より:乎古止点

(片仮名)は乎古止点(ヲコト点)からくる。片仮名が生まれる前に、点を打って、その助詞の場所が決められていた。右側に点を打てば「ツ」と読む。二番目に書けば「コト」、三番目に書けば「ト」と読む。右側下に書けば「ハ」と読む。点で覚えいわば漢字を訓読みするときの補助にしたわけである。

国民の歴史(西尾幹二著・産経新聞社)p107~108より

 女子文化が生んだ「平仮名」に対し、片仮名は男子文化が生んだ。(女子も漢文は読んだろうが)漢文を読みやすく、日本語として理解しやすくするための補助として「片仮名」の元である乎古止点が生み出された。

 さらに、
 (片仮名の由来である)乎古止点が打たれているけれども、とてもそれだけでは足りなくて、~乎古止点の不足を補っている。
 (~文字を書き加えているうちに)例えば「加』という文字をいちいち書いていては間に合わないから、「加」の口をとってしまって片仮名の「カ」が誕生した。

国民の歴史(西尾幹二著・産経新聞社)p108より
国民の歴史:白氏文集(片仮名の由来)乎古止点では足りなくなり、片仮名で補う

片仮名文字主体の『和漢混交文』で書かれた『方丈記』

  このようにして生まれた片仮名文字中心の漢字交じりの文、「和漢混交文」で書かれたのが『方丈記』であった。

 鴨長明は、この『方丈記』の中で、「無常」を語る。俗世の富や名声を捨てた(見放された)ところに価値を見出す。単なる貧乏ではない。精神的には、自分のすきな琵琶を楽しみ自然を楽しみ「風流」に価値を見い出している。
 「漢意」を抜け出て「和魂」の真髄を現代の我々にも伝える。

                                       


 

鴨長明

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