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中3公民「人間の尊重と日本国憲法」における小集団による討論会(対話的で深い学び)

「自分の考えを問い直し、深める社会科学習指導の在り方」 研究の概要および索引語

 公民的分野の学習において、生徒が自分の考えを問い直し、深めるためには、社会的事象を様々な角度から考察する必要がある。本研究では、中学校第3学年「人間の尊重と日本国憲法」の単元で、社会的事象のもつ意味について、様々な見方や考え方があることに気付くことができるよう、小集団による討論会を設定した。この小集団による討論会を通して、自分の考えを問い直し、深める社会科学習の指導の在り方を究明した。

〈索引語:中学校、社会科、見方・考え方、小集団〉

目次

1 主題設定の理由

 学習指導要領の改訂の基本方針の中では、思考力、判断力、表現力などの能力、とりわけ、創造性の基礎となる論理的思考力、想像力及び直感力の育成が重視されている。社会科の学習においては、社会的事象の様々な角度から考察し、社会的な見方や考え方を育てていくことが大切であると考える。
 今まで、生徒の社会的な見方や考え方を育てるために単元のまとめで、自分で調べたことや考えたことを発表する場を工夫してきた。そのため、調べたことを基に自分の考えをまとめることが出来るようになってきた。しかし、生徒の実態調査(平成8年4月27日実施、第3学年4組38人)をみると、発表を聞くときに、「友達の発表内容や考えを取り入れながら、課題に対する自分の考えを見直している。」と答えた生徒は5人で会った。自分で調べたことを様々な角度から考えることが出来るようにするためには、単に調べたことや考えを発表したり聞いたりするだけではなく、友達の発表を聞いて、自分の考えを問い直し、深めていくことができるような場を設定する必要があると考える。
 そこで、本単元では、憲法の基本原則について調べた内容を基に、生徒一人一人が「憲法の意義や役割」について、自分なりの意見や考えを持てるようにする。そして、「憲法の意味・意義や役割」について、様々な立場や視点から生徒の考えを総合に交換し合えるように、発表会の後に討論の場を設定する。討論会は、生徒の発言の機会を保障し、発表しやすいように小集団の形で行うようにする。このように討論会の場を設定すれば、自分では思いつかないような考えをもつ友達がいることや、自分とは異なる立場や観点から考える友達がいることに気付き、自分の考えを問い直し、深めることができるだろうと考え、本主題を設定した。

2 研究のねらい

 「人間の尊重と日本国憲法」における小集団による討論会を通して、自分の考えを様々な角度から問い直し、深める社会科学習の指導の在り方を究明する。

3 研究の仮説

 「人間の尊重と日本国憲法」の学習において、小集団による討論会の場を設定し、自分の考えや友達の考えを相互に交換できるようにすれば、自分の考えを様々な角度から問い直し、深めることができるであろう。

4 研究の内容

(1)基本的な考え方

① 社会的事象に対する自分の考えを問い直し、深めるとは

 社会科における思考力について、『小学校社会科指導資料 新しい学力観に立つ社会科の学習指導の創造』(文部省)では、「社会的事象の意味を論理的に考えたり創造を膨らませたり、あるいは直感を働かせたりして、より豊かな考え方や生き方、行動などの方向や方法などを見いだす能力」と解説している。また岩田一彦氏は、思考力を、「一人ひとりの子どもが、情報を集め、その情報館の関係を、自分でつなぐことによってしか育たない力」と述べている。
 そこで、小学校社会科指導資料及び岩田一彦氏の思考力のとらえかたを基に、社会的事象に対する自分の考えを問い直し、深めるということを「生徒が、社会的事象の追究を通して得た自分の考えを、様々な情報を基に、比較・検討したり、論理的に吟味したりして、様々な角度からの見方・考え方や新たな見方・考え方を獲得すること。」ととらえた。
 また、自分の考えを問い直し、深めるための前提として、社会的事象を支える社会的事象の意味や背景をとらえ、それらを関連付けて社会的事象に対する自分なりの考えを持つことが大切であると考える。

② 自分の考えを問い直し、深める学習過程の工夫

 生徒にとって、取り上げた社会的事象に対する情報量が少ない場合、社会的事象のもつ意味を考えることは難しい。社会的事象の持つ意味を考えるためには、まず最初に課題追究によって得た情報を基に、事実と事実を関連付けたり、事実の背景を考えたりする学習の場が必要である。このような学習があって初めて、社会的事象の意味について自分の考えをもつことができる。そして、自分の考えを問い直し、深めるためには、様々な観点や立場からの見方や考え方があることに気付く事が大切であると考える。
 そこで、社会的事象に対する自分の考えを問い直し、深めるために図1のように学習過程を構成した。
 第1次では、社会的事象を追究する。第2次では、生徒が個々に追究した結果や考えを発表し、情報を共有化する。その上で、第3次では、「社会的事象が社会全体に対してどのような意味をもつのか」など、社会的事象のもついみについて自分の考えを持てるようにする。さらに、様々な考え方があることに気付き、自分の考えを問い直し、深めることができるようにするため、小集団による討論会の場を設定する。

 

(2)主題に迫るために

① 自分の考えを問い直し、深めることに関する生徒の実態について

 図2に示すように、今までに行ってきた一斉で行う発表会で、「友達の考えを取り入れながら、自分の考えを問い直し、深めている」と答えた生徒は5人樽。「考えを問い直し、深めることもある」と答えた生徒は、24人である。「あまり深められない」と答えた生徒は9人である。このことから、友達の考えを取り入れながら自分のかんがえを問い直している生徒が、まだ少ないことが分かる。自分のかんがえを深められないのは、自分の発表に気を取られたり、自分のかんがえを十分にもつことができなかったりするためと考えられる。

 

② 自分の考えを問い直し、深める手だて

ア 討論前に自分の考えをもてるようにする手だて

 本実践では、課題の追究、ようさ結果の発表の後、平和憲法のもつ意味や役割を考えるために、「日本国民は、民主的で平和的な生活のよりどころとするため憲法第9城を改正すべきか」という論題を設定し討論を行う。討論前の論題についての調査時に、論題に対する自分の立場を支える視点となる用語や、その視点から論題を考えた場合の自分なりの見方や考え方を記入するため、カードを活用する。
 生徒がそのカードに記述する内容は二つである。

  •  重要と考えるキーワード
        (知識・概念・資料を短く示す)
  • 「キーワード」に関連づく「自分の考え」
       (討論の際に自分の立場を証明する根拠となる考え)
 ○ キーワードに関連づく自分の考えの例
  • 「平和憲法は世界に誇る憲法、この憲法があったからへいわが続いた。憲法第9城の内容をずっと代えない方がよい」
  • 「湾岸戦争で、日本は金だけ出して人を出さなかった。そのため世界から信用をなくしてしまった。国際貢献の立場では金だけでなく、人も出す憲法にしないと、信用をなくす」

 このように、カードにまとめることによって、生徒が、社会的事象の追究でノートやプリントにまとめた内容を再度整理し、討論時に自分の考えを発表するための情報として活用できるようにする。

イ 相互に意見を交換する機会を保障する手だて
(ア)小集団による討論会

 自分の考えを問い直し、深めるためには、一つの社会的事象に対して、様々な立場や観点からの見方や考え方があることに気付く必要がある。
 そこで、討論会を設定する。この討論会は、一人ひとりの発言の機会をできるだけ多くもてるよう小集団で行う。

(イ)小集団の構成の仕方

 小集団の構成は次のように行う。まず、生徒は、憲法第9条の改正案に「賛成」か「反対」かで、二つの立場に分かれる。立場を決めかねている生徒は、賛成か反対か近い方を選ぶようにする。小集団は、生徒の話合いによって集団の人数や構成を決めるようにする。

(ウ)討論における教師の支援の在り方

 相互に意見を交換する討論会が円滑に進むよう、教師は主に次の四つの支援を行う。一つ目は、生徒に時間を知らせる。教師が時間管理をすることで、時間の心配をせずに討論に集中できるようにする。二つ目は、討論がかみ合わなくなったとき、論点を整理する。三つ目は、討論に参加していない生徒に、カードを示したり討論の内容を解説したりして、考えるための情報を示す。四つ目は、生徒の考え方や、関連付けの優れた点を認めることで、討論の意欲を高めるようにする。

ウ 自分の考えの深まりを表現できるようにする手だて

 自分の考えの深まりを表現できるように、イメージマップを活用する。イメージマップには、キーワード、キーワード同士を関係付けた線、論題に対する自分の立場を支えるための根拠となる考えを記入するようにする。

エ 自分の考えを問い直し、深める場

 小集団による討論の中でも、生徒は自分の考えを問い直すと考えられる。さらに、学習の終末でイメージマップ上に設けた「学習を終えて考えたこと」の欄に、生徒が自分の考えを書く場を設定する。
 そうすれば、討論を通して知った様々な情報間の関係を論理的に構成し直すことができると考える。

③ 討論を経て、社会的な見方や考え方が深まった姿

 小集団による討論会を通して、自分のかんがえを問い直し、深めた生徒像を表1のようにとらえた。

(3)実践研究

本時の学習

ア 目標

 憲法第9条が本当に民主的で、平和的な国民のよりどころになっているかという視点から、国民と憲法第9条のかかわりについて自分の考えを問い直し、深めることができる。

(4)授業の分析と考察

① 小集団による討論会の概要

 どの集団も討論会は、討論前の論題の調査時に準備したカードの読み上げによる発表から始まった。カードについての発表が一通り終わったところで、反対派から賛成派へ質問する形で、討論を開始した。発表はどの班も活発であり、約20分間よどみなく意見や考えの交換が続いた。普段発言の少ない生徒もカードを参考にしながら意欲的に意見を述べていた。座っていられず立ち上がって自分の考えを訴える生徒の姿も見られた。
 「学習を終えて考えたこと」を書く場では、どの生徒も友達の意見や考えを参考にしながら自分の考えをまとめていた。

ア カードの効果について

 小集団による討論会の中で、一人ひとりの意見や考えが活発に交換できた。活発に意見交換できたのは、カードの効果が大であったと考える。カードにキーワードと自分の立場を証明する根拠となる考えをまとめていたので、発表の論点を明確にすることができた。また、立場を異にする友達がどのような考えをもっているのか、記述内容を目で見ながら話を聞けたので、友達の考えを理解しやすかった。

イ 生徒のイメージマップの分析と考察

 資料1として例示した生徒のイメージマップ(一部)を分析すると、キーワードの数が増えている。キーワード同士を関連付けたことを示す線の数も増えている。また、キーワードを視点とした「考え」の数も増えている。
 つまり、この生徒は表1のE型で、自分の考えを問い直し、深めた生徒である。
 このようにして全生徒のイメージマップを分析したものが表2である。

 表2から分かるとおり、どの生徒も討論を通してイメージマップ上のキーワード、線、考えのいずれかが増えている。クラス全体では、図3に示したように生徒が取り上げたキーワードの総数は132から256に、またキーワードとキーワードを結ぶ線の総数は、38から140に、さらに賛成・反対のそれぞれの立場を支える考えは、81から220に増えた。しかも、図4に示すように、表1のE型(全体の構造が明確化し、立体的に考えが深まった)の深まりをした生徒が38人中、33人いた。
 クラスの傾向を総合的に分析すると、キーワードの数が増えていることから、討論前までは自分で気付かなかった様々な視点があることに気付いている。関連を示す線の数が増えていることから、今までに気付いていた自分の視点からの情報と、新たに気付いた視点からの情報との関係を、自分なりにとらえ直している。自分の立場を支える根拠となる考えの数が増えていることから、社会的事象について様々な角度から考察している。
 このように社会的事象のもつ意味について、小集団で討論すると、自分の考えを他の意見や考えと比較・検討し、論題について構造的に考えることが分かった。
 また、資料1の生徒の「学習を終えて考えたこと」を読むと、「やっぱり憲法は改正すべきだと思う。」という記述がある。この「やっぱり」という記述から、この生徒は討論を通して、自分の考えに確信をもったことがうかがえる。
 さらに、「反対側の意見の中に~あったけど、私は~。」という記述からは、相手の意見を自分なりに受け止め、そして、自分の考えを再吟味していることがうかがえる。このように全盛との「学習を終えて考えたこと」を、表1のア~エを視点に分析し、表2中の「記述内容」に示した。これを見ると、討論後に「様々な観点からの考察」を示す記述がある生徒は、34人である。
 また、図5に示すように、考えに確信をもったり、自分や友達の考えの矛盾に気付いたりした生徒、つまり、表1の「イ」に当たる記述をした生徒は、37人である。
 さらに、自分の考えを問い直した結果、最初と立場が変わったことを示す「ア」の記述をした生徒は、17人だった。
 自分の立場に対する自分の考えを明確にもって討論する中で情報を交換すれば、相手の情報を受け入れながら、自分の考えを問い直し、深めていくことが分かった。

ウ 生徒の自己評価の分析

 学習の振り返りカードから「国民と憲法のかかわりについて、小集団で討論することによって、自分の考えを見直し、深めることができたか」について、図6に示すとおり、大変深まったと答えた生徒が22人。やや深まったが9人。普通が7人という結果だった。やや深まったと答えたうちの2人、普通と答えたうちの6人が、備考欄には「友達の考えを参考にできた」「考えが深まった」と記入している。
 これらの生徒は自分の考えが問い直され、深まったため判断に迷い、時効評価が、「やや深まった」「普通」となったと考えられる。
 今までの発表会で自分の考えを問い直し、深めている生徒は5人だったが、この討論会終了後には、「大変深まった」が、22人に増えた。このことからも、小集団による討論会が、自分のかんがえを問い直し、深めるために有効であることが読み取れた。
 しかし、幾つか課題も残った。例えば、表2の1、5、13、15、20、29の生徒のように、キーワードが三つ以下の生徒は、考えを問い直し、深めることがやや難しい傾向が読み取れた。これらの生徒にとって、問い直しが難しいのは、社会的事象追究の段階で、論題についての十分な情報を得たり、討論会で相手の意見や考えを自分なりに解釈した入りすることができなかったためと思われる。
 このような生徒にとっては、深めるべき自分の考えをもてるよう、わらに指導の在り方を追究しなければならないことが分かった。

5 研究のまとめ

 「人間の尊重と日本国憲法」の学習において、自分の考えを問い直し、深める社会科学習の指導の在り方の研究を進めてきた結果、次のことが明らかになった。

研究で明らかになった点
  1. 論題について、自分で調べたことや考えたことを整理するカードを活用し、イメージマップ上に置きながら討論することは、意見の交換を活発にするだけでなく、自分の考えを明確にする上で有効である。
  2. 課題の追究や発表の後に、小集団による討論会の場を設定し、考えや意見を相互に交換すれば、自分の考えを様々な角度から問い直し、深めることができる。


6 今後の課題

  1. キーワードの少ない生徒に対して、どのような助言が必要か、またどのような資料が必要かなど具体的な支援の手だてについて考えていく。
  2. 本研究では、主として量的な面から、考えの深まりをとらえたが、生徒の考えが記述された文章を分析することにより、質的な面から生徒の考えの深まりをとらえる方法について、さらに研究していく。

〈主な参考文献〉

岩田一彦:子を生かす「課題学習」とは    東京書籍
藤井千春:問題解決学習のストラテジー    明治図書
北尾倫彦:中学校思考力・判断力       図書文化
渋沢文隆:新学力観に立つ社会科の授業改革  明治図書

平成8年の実践を振り返って

 平成8年、30代後半の実践です。
 当時はまだ、指導案に絵を入れるなどは少なく、これを作ったときには同僚から「こんな漫画が入った指導案でいいのか」と言われました。
 これから数年後に生活科が始まると、このような指導案は珍しくなくなりますが、時代の変わり目の時期だったのです。


 また、この年は、憲法改正賛成派と反対派の人数が初めて逆転した年だったと記憶しています。世の中がいよいよ動いたと錯覚した私は、「憲法改正」を授業にかけたいと先輩に相談すると、「止めておけ」と言われました。しかし、まだ30代で生意気だった私は、先輩の忠告を無視してしまいました。


 無事研究授業を終え、論文にまとめ終えると、ある社会科の全国組織の私的研究会で発表の機会を与えられました。全国の先生方の意見をお聞きできると、いさんで研究会に臨んだのですが、結果は散々です。

 茨城では憲法改正を授業にかけることが認められる雰囲気がありましたが、全国では、まだまだそういう雰囲気が醸成されていなかったのです。


 「なんだこの実践は」「先生は、生徒に自分の考えを押しつけるのか」「この実践で生徒に身に付けさせたい知識は、憲法は改正されなければならないということなのか(怒り)」など、こちらの意図していない批判が相次ぎました。
 丁寧に穏やかに、こちらの意図は、「憲法は、国民の平和と民主主義を守る基本法である」という知識を全員で共通理解した後に、「民主主義と平和を守る礎として、憲法改正は必要か必要ないかを考える実践です。答えはこの時間では出ません。将来にわたって生徒自身が考え続けられるようにオープンエンド、開かれています。」と説明しても聞いてもらえませんでした。
 現在でさえ、憲法改正論議を受け付けないという人がいるのですから、今から30年弱前なら当たり前かもしれません。しかし、中学校社会科の役目は、「社会的な課題(問題)を自分なりの見方・考え方」で問い続ける力を育てることです。当時の社会科の会の重鎮の先生方の「憲法改正を授業にかけてはいけない」、「自分が考える正義以外の他者の考えは認めない」という姿勢ではなく、「答えは、オープンエンドに開かれ、将来にわたって生徒自身が考えを深めていく実践」を認めるゆとりを、指導者側ももつ必要があると考えます。


 この全国的な社会科の会の発表で学んだことがあります。
 授業での対話は、討論ではない、つまり相手を打ち負かすことではないということです。
 子どもたちの「主体的・対話的な学び」を育み深めるためには、穏やかな雰囲気が必要です。この後、40代に入ったあとの数年間の私の実践は、討論ではなく、話合いでいかに考えを深めることができるか、という点に焦点が絞られていきました。


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