『風、薫る』第128話で、ツヤと敏江が看護婦試験に合格しました。
落ちた二人も、次を目指して学び続ける。
ところが、合否の場面と同じくらい私の耳に残ったのが、平蔵の「少しだけ」でした。
柏の葉を飾り、子どもたちに碁を教える平蔵。直美がその言葉を繰り返したとき、二人の間にある時間まで聞こえた気がしたのです。
人が変わったとわかるのは、合格した日だけではない!

ツヤの悩みは、学びの助走
ツヤは自分で考えて看護をしてみます。けれど、りんと同じようにはできない。下を向くツヤに、りんはその問いを宿題として渡しました。
りんと同じようにはできない
焦るな、ツヤさん。
りんと同じ場所に、今日いきなり立てるはずがないんです。りんは、患者を前に迷い、考え、看護を重ねてきました。ツヤにはツヤの時間が要ります。
前話でりんがツヤへ渡した言葉を思い返すと、「教わった」から「自分でできる」へ進む難しさが、今回の場面から伝わってきます。
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「自分で考えて」は難しい宿題
りんも「自分で考えて」と言うだけでは足りないのかと悩みます。
りんちゃん、自分の修業時代を思い出して。言葉は聞いたその場で分かったつもりになれても、患者の前で初めて自分事になることがあります。
若い教師と話すとき、私は「子どもの『おや?』を探し、その意味に仮説を立てよう」と伝えていました。
でも、言われてすぐに「おや?」を見つけられるわけではない。
ツヤはいま、自分事として考え始める手前にいます。教えるりんも、焦らなくていい。
難しい宿題だね、と語り合うりんと直美。
その姿を、環が絵にしています。答えの出ない二人を、環はそばで見ている。
これ、幸せな光景ですよね。
平蔵の「少しだけ」に隠れたもの

直美が平蔵を訪ねると、近所の子どもたちに碁を教えていました。えっ、あの平蔵が。私はここからもう、ちょっと涙腺が緩みます。
碁を教え、柏の葉を飾る暮らし
酒も減ったそうです。
飲むと頭が回らなくなるから、と平蔵。
子どもたちと碁を打つには、頭を働かせていたいんですね。
りんの手のひらで転がされているようでもあり、平蔵自身が碁の時間を選んでいるようでもある。面白いなあ。
部屋に飾られていたのは、柏の葉でした。
直美が「お花がなくてもすてき」と言うと、平蔵は、仕方なく飾っているうちに「明日は何を飾ろう」と考えるようになったと話します。
好きになったのかもしれない、とーーー。
平蔵と直美がここまで話せるようになるまでの人物関係は、作品全体のあらすじをたどると見えてきます。
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直美が繰り返した「少しだけ」
「草も、木も、まあ少しだけな。」
平蔵の言葉を、直美は「少しだけーーー」と繰り返しました。
なぜ、直美は平蔵の言葉を返したのかーーー。
私は、ここに引っかかりました。
若い教師には、子どもの言葉に「あれ?」と思ったら、その意味に仮説を立てようと伝えてきました。今回の私の「おや?」は、平蔵がわざわざ自分の思いを卑下するように言ったこと‥。それは、「なぜ?」です。
場末で見向きもされない草や木が、そこに生きている。
平蔵は「少しだけ」と言うけれど、なおじには、そういうものの姿を他人事とは思えない人の言葉に聞こえました。
自分もまた、目立たず、淡々と生きていく。
平蔵の苫屋(とまや)に飾られる、花も咲かない柏の葉こそ、平蔵自身なのではないか‥、と。
直美も、言葉どおりの「少しだけ」ではないと受け取ったのではないでしょうか。「良かったじゃないですか。変わって」と返します。平蔵は「あんたのお陰だ。ありがとうな」。その礼がまっすぐ届いて、私は参りました。
少しだけ
柏の葉とも
肩並べ
「少しだけ」と言いつつも、花が目立たない柏の葉に、自らの生き様を重ねている平蔵を詠んで一句。
🌸 柏(カシワ)の木は、本当は、花も咲きますし、実もなります。 葉だけの植物ではありません。
ただ、桜のように派手な花ではないため、意識して見ないと気づかないことが多い良く植物ーー。
ツヤたちの合格と、続く学び

ツヤと敏江が学科試験を通り、実地試験にも合格しました。
おめでとう、ツヤさん。長い間、看護を学ぼうとしてきた日々が、ここにつながりました。
試験の日、焦っている子もいましたね。私も試験は大嫌い。うまくいった試しがないんですよ……。だから、りんと直美に見送られるツヤたちを見ているだけで、こちらまで落ち着きませんでした。
一方、セツたち落ちた二人は次の試験へ向けて学び続けます。合格の知らせを喜ぶそばで、もう一度机に向かう人もいる。そこを見せてくれたのが、私はうれしかったです。
ツヤが実習で何につまずき、問いを持ち始めたのか。第122話へ戻ると、合格までの日々がつながります。
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シマケンの提案が残す道標

りんがシマケンのもとへ通ってきた看護にも、区切りが訪れます。もう通わなくなるのか。そう思うと、私は寂しい。
そのシマケンが、りんに看護の本を書くよう勧めました。ツヤに「自分で考えて」と伝える難しさを知ったばかりのりんに、今度は自分の経験を言葉にする宿題です。
りんと直美が迷いながら重ねた看護が、本になれば後に続く人の手に渡る。そんな道が開けたのはうれしい。でも私には、本を書くという話が、シマケンとりんの間に残る細い糸のようにも思えました。看護が終わったあとも、あの提案の声は、りんの中に残るのでしょう。
物語は全130回の終盤へ来ました。りんと直美が歩いた時間をたどり直すなら、放送全体の流れもつながります。
よくある質問
ツヤ以外に試験を受けたのは誰ですか?
敏江やセツらも受験しました。試験へ向かう一同を、りんと直美が見送っています。
不合格だった二人はどうしましたか?
次の試験を目指し、学びを続けています。合格発表のあとにも、その姿が描かれました。
平蔵はなぜ酒を減らしたのですか?
飲むと頭が回らなくなるから、と平蔵は話しました。子どもたちに碁を教える時間が、彼の日々に入ってきています。
環は何を描いていましたか?
ツヤへの教え方を語り合う、りんと直美の姿です。二人が悩みながら並んでいる、その時間を絵にしていました。
筆者紹介|なおじ

公立小・中学校で約35年、教師として子どもたちと向き合い、校長を11年、指導主事としても教育現場に携わってきました。
若い教師には、子どもの言葉や動きにある「おや?」を見つけ、その意味を考えるよう伝えてきた経験があります。
今回、平蔵の「少しだけ」に立ち止まったのも、その癖からでしょう。
ドラマを読むときは、画面に描かれたこと、周囲に広がる見方、私自身が受け取った意味を分けるよう心がけています。現在はドラマ・芸能・政治・歴史・スポーツ・旅・学び・書評という八つのブログで、人の生き方と社会のつながりを書いています。