笠置の史実の出産
穎右の死の知らせは、出産を間近に控え笠置が入院している病院に届く。
最愛の人を亡くした悲しみ、そして笠置にとって33歳になろうという年の初産なのに、付き添ってくれる身内は一人もいない。
心細かっただろう。
笠置は、穎右が残した浴衣と丹前を探し出し、産院の壁につるしてもらった。
その穎右の丹前と浴衣だけが、このときの笠置の心の支えとなる。
ちなみに、穎右の丹前と浴衣を笠置に届けたのは、小林小夜のモデルとなったと思われる女性だとされる。
ブギウギの中では、スズ子が自らマネージャーの山下達夫(近藤芳正)さんにお願いし、病院に持ってきている。
さらにスズ子のお産の最中、愛助も生死をさまよいながら「生きよう」として戦っていた。
涙なくして観られない場面だった…。
実際は、穎右の死後の6月1日に、失意の中で陣痛を迎えた。
穎右の浴衣を壁から外してもらい、それをぐっと抱きしめ産みの苦しみに耐えた。
「彼の浴衣を抱きしめると、彼の匂いがして、『自分はひとりぼっちでは無い』と感じられた」
と笠置は後年語っている。
無事、女の子を出産。
ヱイ子と名付けた。
出産前、穎右と結婚したら歌手をやめることを決意していた笠置。
だが、穎右が亡くなった今、一人でヱイ子を育てていくために改めて歌手を続ける決意をするのだった。
ヱイ子を養子に出す案、吉本に引き渡す案をすべて拒む。
「ヱイ子が、自分と同じように『自分は実母に捨てられた』という思いを持たせたくない。」
笠置には、そういう強い思いがあったのだ。
終わりに:「吉本穎右との恋」と忘れ形見の 愛娘「ヱイ子」
日本が歴史上最悪の時期を迎えているとき、笠置とその恋人吉本穎右(えいすけ)は、ごく短いが最も幸せな時期を迎えていた。
二人は、結婚を誓っていたが、穎右の病死(肺結核)により、その二人の願いは果たせずに終わる。
穎右の死の約一か月後、笠置はたった一人で愛娘「ヱイ子」を出産した。
ヱイ子が生まれる前に、父である穎右が死んでしまったため、ヱイ子は私生児として育つ。
笠置の意地
笠置シヅ子こと亀井静子は、生まれたとき実の父親がすでに病死していた。
父との結婚を認められなかった母親は、父の家を追い出され自暴自棄となってしまう。生まれたばかりの笠置を育てられず、亀井うめ(ブギウギの花田ツヤ)が育てることになった。
笠置は、その事実を知らずに育つ。
だが、自分がもらい子であることを知って、後年ずいぶん悩んだことだろう。
自分に子が生まれることになったが、その子は全く自分と同じ境遇で生まれることになった。
生まれる前に実の父親(吉本穎右)が病死している。
実母(谷口鳴尾)と同じように、自分も穎右とは結婚できず吉本家の人間にはなっていない。
吉本家からは、笠置の子ヱイ子を引き取る話も出ていたらしい。
だが、笠置はその申し出をガンとして拒んだ。
ヱイ子を自分と同じ境遇にしたくなかったという。
笠置は、女で一人でヱイ子を手放さずに育て上げたのだった。
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