こんにちは、なおじです。
NHK朝ドラ「ばけばけ」で岡部たかしさん演じる司之介。
97話では荒金九州男の小豆相場話に、またしても大金を預けてしまいました。
視聴者からは「また!?」の大合唱。
でも実は、この一件、最終的には「大損」にはならなかったんです。
ばけばけの小豆相場と史実を比べながら、司之介のモデル・稲垣金十郎の真の姿に迫ります。
元社会科教師35年のなおじが、ばけばけ 小豆相場の史実と稲垣金十郎の生涯を徹底検証します。

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この記事でわかること
- ばけばけ 小豆相場の史実と明治時代の投機ブームの実態
- 荒金九州男は善人か悪人か?ドラマの結末と史実の対比
- 稲垣金十郎が「善良すぎる侍」と呼ばれた理由
- 一度の詐欺で全財産を失った真相と無実の罪
- ドラマの司之介との共通点と脚色の違い
- 武士道の誠実さが仇になった明治維新の皮肉
- セツを養女に迎えた理由と生涯続いた深い愛情
- 晩年の小泉八雲一家との同居生活と最期
ばけばけ 小豆相場の史実|明治の投機ブームとは

小豆相場が「一攫千金の夢」を生んだ理由
明治時代、大阪堂島の米相場と並んで有名だったのが、小豆相場です。
小豆は和菓子の材料として需要が高く、価格変動が非常に激しかった。
価格変動が大きいということは、うまくいけば大きく儲けられる反面、失敗すれば全財産を失うということでもあります。
当時の小豆相場では「一俵6〜7円が17円に跳ね上がる」といった激しい値動きが記録されており、一攫千金を狙う人々が群がったのも無理はなかったんです。
士族の家禄を一括受け取りした人々は、まとまった資金を手にした一方で、商売の経験がほぼゼロ。
そういった人々が投機の甘い言葉につられて財産を失うケースは、明治初期に後を絶ちませんでした。
荒金九州男はドラマの善人キャラだった

荒金九州男は、史実には登場しない架空のキャラクターです。
ところが、ドラマの展開を見ると、荒金九州男は決して悪人ではありませんでした。
1度目の小豆相場では大もうけ。しかし2度目は失敗してしまいます。
それでも1度目に儲けた分の範囲内の損失だったため、司之介が大きな被害を受けることはありませんでした。
だます意図も、まったくなかった。
ウサギバブルの時のように「また司之介がやらかした」と視聴者はドキドキさせられましたが、結果的には意外な着地でしたよね。
史実の金十郎が一度の詐欺で全財産を失ったのとは、大きく異なる脚色です。
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稲垣金十郎はなぜ詐欺師に勝てなかったのか

善良な武士が狙われやすかった3つの構造
史実の稲垣金十郎が詐欺に遭った背景には、個人の問題ではなく、時代の構造的な問題があります。
元社会科教師として35年間、明治維新を教えてきたなおじには、これが教科書に載らない庶民の苦しみとして強く刺さります。
① 人を疑わない武士道精神
「誠実で真面目な性格」と伝えられる金十郎は、武士道の精神として「人を信じ、誠実に生きる」ことを叩き込まれていました。
「人を疑わなければ生き残れない」商業社会に、「人を疑うな」と育てられた侍が挑んだ。
そりゃあ、やられてしまいますよ。
② 商売経験のなさ
百石取りの並士として育った金十郎には、商業の経験がありませんでした。
士族の家禄奉還で得た6年分の家禄を一括受け取りし、事業を始めようとしましたが、資金の守り方も運用の仕方も分からなかった。
③ 明治初期の法整備の未熟さ
明治初期は、詐欺師を取り締まる法整備も、消費者を守る仕組みも不十分でした。
悪辣な詐欺師が「無実の罪を被害者になすりつける」ことすら可能だったんです。
無実の罪・裁判費用で全財産消滅という悲劇

史実の金十郎が遭った詐欺は、被害で終わりませんでした。
孫の小泉一雄の著書『父小泉八雲』には、こう書かれています。
「詐欺にかゝった上に相手が悪辣極る奴で逆に無実の罪を着せられ、数年後には晴天白日の身とはなったものゝ、裁判費用で財産を悉く無くし、日常の生活費にも事欠くの有様となった」
事業資金を騙し取られただけでなく、無実の罪まで着せられたんです。
数年後に無罪は証明されましたが、その裁判費用で残っていた全財産を使い果たした。
読んでいて、本当に悔しくなりますよね。
詐欺師に財産を奪われ、さらに無実の罪を晴らすためにまた財産を奪われる。
善良な人間が、二重に傷つく構造がそこにあります。
誠実さが 仇となりたる 武士の末
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稲垣金十郎とは?「善良すぎる侍」の人物像

稲垣金十郎(生年不詳〜1900年)は、松江藩で百石取りの「並士」という家格の武士の家に生まれました。
小泉八雲の妻・小泉セツの養父として知られる人物です。
孫の小泉一雄が著書『父小泉八雲』に残した言葉が印象的です。
「母の養父、雲峰院殿は稍覇気に乏しい善良な人であった」
「覇気に乏しい」という表現が、なんとも切ないんですよね。
大の甘党で、誠実で真面目。京都警備の任に就いていた頃、好物の菓子を買わせたなんてエピソードも残っています。
稲垣家の家格と小泉家との違い

稲垣家は元祖の稲垣藤助が延宝元年(1673年)に二代目松江藩主・松平綱隆に仕えてから続く武家です。
百石取りの「並士」という家格は、三百石取りの上士より一段下がる位置。
実は、セツの実家・小泉家は三百石取りの「上士」でした。家格に3倍の差があったんです。
でも縁戚関係だったため、養子縁組が実現しました。
この家格の違いが、ドラマでの「雨清水家」との対比構造にもつながっているように感じます。
「並士」が生きた幕末・明治の空気
幕末の松江藩で武士としての責任感と清廉さを身につけながら育った金十郎。
当時の武士に求められたのは忠義と勤勉さ。金十郎の生来の気質は、この環境でさらに磨かれていったんでしょうね。
ところが、明治維新でその「武士らしさ」が一転して足かせになってしまう。
「誠実さが仇になる社会」の皮肉が、金十郎の生涯にはよく出ています。
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史実は「一度の詐欺」、ドラマは「二度に分割」

史実とドラマの対比を整理するとこうなります。
| 項目 | 史実(稲垣金十郎) | ドラマ(司之介) |
|---|---|---|
| 詐欺事件の回数 | 一度の詐欺で全てを失う | 二度の事件を描く |
| 第一の事件 | 家禄で「実業開始」→詐欺被害 | ウサギバブル(4話・9話)→借金 |
| 第二の事件 | (同じ事件の続き) | 小豆相場(97話〜)→結果的に大損なし |
| 最終的な被害 | 全財産喪失+無実の罪 | 小豆相場は意外にも無事着地 |
史実の金十郎は「一度の詐欺」で全財産と信用を失いました。
一方、ドラマの司之介は二度の事件を経験しながら、小豆相場では荒金九州男が善意の人物だったため、大きな被害を受けませんでした。
脚本が生んだ「懲りない父親」の構造
ドラマが史実と大きく違うのは、「悪辣な詐欺師」ではなく「善意の投機仲間」との出来事として描いている点です。
そのため司之介は、史実の金十郎のような「無実の罪」を着せられる展開にはなりませんでした。
しかしだからこそ、司之介の「懲りない父親」ぶりが際立つ。
悪人に騙されたわけでもないのに、また失敗しちゃう。
これが視聴者の「また!?」という愛のある呆れを生む、脚本の巧みさだとなおじは感じます。
ドラマが描く士族没落の二段構え
- 第一段階(ウサギバブル):経済的な打撃
- 第二段階(小豆相場):精神的な揺さぶり・士族の誇りと現実の葛藤
史実では一度の大事件で描かれた没落を、ドラマは段階的に、丁寧に積み上げています。
こうやって段階を踏むことで、司之介の苦しみ・ひいてはトキの苦しみが視聴者により深く伝わる。
批判もあるようですが、なおじはここに脚本の工夫を感じます。
ドラマの司之介との共通点と脚色の違い

共通点|善良ゆえの迷走
| 項目 | ドラマ(司之介) | 史実(稲垣金十郎) |
|---|---|---|
| 詐欺・投機被害 | ウサギバブル失敗、小豆相場(大損なし) | 明治8年の事業詐欺で全財産喪失 |
| 性格 | 善良で不器用、懲りない | 善良で誠実、覇気に乏しい |
| 家族への影響 | トキや家族を経済的に苦しめる | セツや家族を経済的に苦しめる |
| 時代背景 | 明治時代の士族没落 | 明治維新後の士族没落 |
どちらも「善良な性格ゆえに経済社会で迷走する」という点は共通しています。
「人を疑うな」と育てられた侍が、「人を疑わなければ生き残れない」社会に放り込まれる。
こういう生徒、教室にも一人はいませんでしたか。
なおじは35年間の教師生活でそういう子を何人も見てきました。誠実すぎる子が、なぜか損をする場面を。
脚色の核心|史実より優しい世界
ドラマが史実と決定的に違うのは、「世界の優しさ」です。
史実の金十郎は、悪辣な詐欺師に無実の罪まで着せられ、裁判で全財産を失った。
一方ドラマの司之介は、小豆相場で結果的に大損を免れ、荒金九州男とも最終的に禍根を残しませんでした。
ドラマとしての「救い」を残しながら、それでも士族没落の苦しさを丁寧に描く。
脚本家・吉澤智子さんの語り口の特徴がよく出ている部分だと思います。
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小泉セツを養女に迎えた理由と深い愛情

金十郎は子に恵まれなかったため、幼いセツを養女として迎えました。
武家存続・縁戚関係・深い愛
養子縁組には複数の理由があったとされます。
① 武家の家を存続させるため
武家社会では家を存続させることが最優先。稲垣家は延宝元年(1673年)から続く家系であり、金十郎の代で途絶えさせるわけにはいかなかったんでしょうね。
② 縁戚関係による結びつき
小泉家と稲垣家は遠い親戚関係。家格に差はあったものの、縁戚だからこそ実現した養子縁組でした。
③ 実の娘以上の愛情
金十郎は、養女セツを実の娘以上に可愛がりました。
「稲垣家の親たちの愛情、可愛がりようは、また格別であって、彼女も心から愛し慕い、その親子の情もまた、生涯にわたって翳ることがなかった」(小泉一雄『父小泉八雲』)
武家の作法や節度を重んじる家風のもとで、金十郎は厳しさよりも誠実さと情をもってセツに接しました。
生涯続いた親子の絆
セツも生涯にわたって養父母を慕い続けています。
元教師のなおじとしても感動してしまいます。
35年間教師をやってきて、こういう親子関係も見てきました。血縁より深い絆って、確かにあるんですよね。
特に養子縁組の場合、意識して愛情を注がないと関係が築けない。金十郎の人柄が、この親子の絆を生んだんだと思います。
晩年の生活と家族との関係

数々の困難を経て、稲垣家はかつての武士の面影を失っていきます。
でも金十郎は、善良な人柄ゆえに家族や周囲から慕われ続けました。
小泉八雲一家との同居と熊本移住
晩年は養女セツの再婚先である小泉八雲のもとに身を寄せ、共に暮らすことになります。
熊本移住の際も、金十郎と妻・トミ、そして父・万右衛門(おじじ様)も一緒に移住したんです。
財産を失った金十郎でしたが、善良さと誠実さは最後まで変わらなかった。
八雲は、金十郎たちの生活費も負担していました。さらにセツの実家・小泉家への仕送りもあり、高給取りでも経済的には厳しかったはず。
それでも、金十郎を見捨てることはなかった。この家族の絆が、なおじには眩しく見えます。
明治33年11月、胃潰瘍で東京に散る

金十郎は明治33年(1900年)11月19日、東京で胃潰瘍のため亡くなります。
享年59歳(小泉セツ『思ひ出の記』巻末年譜による)。
当時の医療水準では、胃潰瘍を治すことは困難でした。
金十郎の生涯は、名声を残したものではありませんでした。しかしその善良さゆえに苦境に陥り、時代に翻弄された姿は、明治維新を生きた士族の等身大の姿を示しているように思います。
元教師が見る稲垣金十郎|ダメ男ではなく「善良すぎた侍」

司之介のモデル・稲垣金十郎は、本当にダメ男だったのでしょうか?
なおじの答えは「ノー」です。
誠実さを貫いた人間の最後に残るもの
金十郎は決してダメ男じゃない。むしろ武士道の誠実さを最後まで貫いた人物です。
詐欺に遭ったのは、人を疑わない善良な性格ゆえ。無実の罪を着せられたのは、理不尽な時代の犠牲者だったから。
35年間教師をやってきましたが、誠実さって本当に大事です。
子どもたちには、いつも「人を裏切らない人間になれ」と教えてきました。
社会では不利に働くこともある。それは分かっています。
でも最終的には、「人を裏切らない人間」が幸せを掴む気がするんです。
金十郎の生涯がそれを証明しています。財産は失っても、家族という最後の宝は失わなかった。
ドラマが伝える「個人ではなく時代の問題」
ドラマの司之介は何度も失敗を繰り返す「懲りない父親」として描かれています。
しかし史実の金十郎は、一度の大きな詐欺被害で人生が変わってしまいました。
ドラマは繰り返すことで、明治時代の士族没落の構造的な問題を浮き彫りにしているように感じます。
個人の資質の問題じゃなく、時代の問題だったんだということが伝わってくる。
教科書には載らない庶民の苦しみが、ここにある気がするんですよね。
よくある質問(Q&A)
Q1. ばけばけの小豆相場は史実に基づいているのですか?
A. 明治時代に小豆相場を含む商品先物取引が実在し、経験の乏しい士族出身者が投機で財産を失うケースが多くあったのは史実です。
ただし、ドラマの荒金九州男は架空のキャラクターで、悪人ではありませんでした。1度目は大もうけ、2度目は失敗しましたが、司之介に大きな損害はなかった。
史実の金十郎が遭った「悪辣な詐欺師による全財産喪失」とは、大きく異なる脚色です。
ドラマは「重さ」より「救いと再起」を選んだのかもしれません。
Q2. 稲垣金十郎はどんな詐欺に遭ったのですか?
A. 明治8年(1875年)4月、士族の家禄奉還で得た6年分の家禄を一括受け取りし、事業を始めようとしました。
しかし事業資金を騙し取られ、さらに詐欺の相手から無実の罪まで着せられました。
数年後に無罪は証明されましたが、裁判費用で全財産を失い、日々の生活費にも事欠く状態に。
孫の小泉一雄は「相手が悪辣極る奴」と記しています。
Q3. なぜ「善良すぎる侍」と呼ばれたのですか?
A. 金十郎は誠実で真面目な性格で、人を疑わない善良さを持ち、武士道の精神を最後まで貫いた人物です。
孫の小泉一雄は「やや覇気に乏しい善良な人」と評しています。
商売では人の良さがかえって仇となり、詐欺被害に遭ってしまいました。
でも家族からは深く慕われ、養女セツとの親子の情は生涯続きました。
Q4. ドラマの司之介と史実の金十郎の違いは何ですか?
A. ドラマの司之介は何度も失敗を繰り返す「懲りない父親」として描かれています。
一方、史実の金十郎は一度の大きな詐欺被害で全財産を失いました。
またドラマの小豆相場では荒金九州男が善意の人物だったため、大損にはなりませんでしたが、史実では悪辣な詐欺師に無実の罪まで着せられています。
ドラマは視聴者に「救い」を残しながら、士族没落の苦しさを丁寧に描いているのでしょうね。
Q5. 稲垣金十郎の晩年はどうだったのですか?
A. 晩年は養女セツの再婚先である小泉八雲一家と同居しました。
熊本移住の際も、金十郎と妻・トミ、父・万右衛門も一緒に移住しています。
財産は失いましたが、善良さと誠実さは最後まで変わらず、家族から深く慕われました。
明治33年(1900年)11月19日、東京で胃潰瘍のため亡くなりました。享年59歳(小泉セツ『思ひ出の記』巻末年譜による)。
筆者プロフィール|なおじ
公立小中学校で35年間社会科教師として勤務(茨城県)。校長11年。
退職後は8つのブログを運営し、朝ドラ「ばけばけ」では史実検証記事を毎話執筆中。
教え子からは「歴史が面白くなる先生」と呼ばれていました。
特にNHK朝ドラの時代背景や登場人物のモデル研究、明治時代の士族没落史が専門分野です。
この記事では「教科書には載らない士族の苦しみ」を、なおじ流でお届けしました。