対話する力を育てる
「対話的な学び」は、教師が質問して、子どもが教師の意図する「正解」を答える、という授業形式を目指しません。
もう一つ、子ども同士で、「正解」を決するために「対決」させる授業形式でもない、ということを教師は意識する必要があります。
では、「対話的な学び」が実現しているとき、子どもたちの間では、どのような条件が成立しているでしょうか。
- 論点が明確になっていること
- 論点を巡って、発言がつながりながら発展していること
上記のような条件が整っていないと、「対話的な学び」は成立しません。
1の「論点の明確化」、つまり何を話すのか、子どもたち自身がわかっていないと、単なるおしゃべりになってしまいます。
2の「論点を巡って、発言がつながりながら発展する学び」は、一朝一夕には実現不可能です。
日々の授業実践で、どのようにすれば「明確な論点」を巡って、発言がつながる対話的で深い学びを実現することができるのでしょうか。
日々の日常生活、および学校生活の全てで、「見る力」を鍛え続ける
社会科における「見方・考え方」は、日々の日常生活・学校生活など、全ての社会生活を通して鍛え続ける必要があります。
社会科における「見る力」は、究極的には、「かかわりを捉える力」のことです。
社会科に於いて「見る」とは
社会科に於いて「見る」とは、どのようなことを指すのでしょうか。
社会科において、「見る」とは、『その子なりの視点という「色眼鏡」をかけ、観察・追究の対象となるモノを幾つかの面に分け、それぞれの面の相互の「かかわり」や、「モノ」の外側にあって影響を与えている他のモノとの「かかわり」を、分析する行為のこと』です。
「見たこと」+「考えたこと(先行経験・資料などの根拠を示す)」を発表することを指導し続ける
日々の指導では、「○○が、▲▲しているのを見ました。」、それを見て「▢▢、と疑問に思いました。」「なぜ、疑問に思ったかというと◇◇のはずだからです。(◇◇は先行経験の知識や資料を根拠として挙げる)」
この3つのセットを発表の骨子とするよう粘り強く指導し続けます。
- 「見たこと」+「思ったこと」を書かせる(発表させる)
- 「思ったこと」とは、①疑問と ②「疑問に思った根拠となる知識(先行経験)
論点が明確になるとは
小学校第6学年で、「聖武天皇と奈良の大仏」という単元の学習をしていたとします。この学習で「大仏は誰が作ったのか」「大仏の大きさはどのくらいか」「大仏は、どのようにつくられたのか」「大仏は、どのような目的で作られたのか」などの課題で追究されている間は、論点は明確化されません。
では、論点とはどのようなもので、どのような時に明確化されるのでしょうか。
大仏は、天然痘がはやっていたから「病気が治りますように」と、仏様にお願いするために建てられました。
家の近くには、お寺があっておばあちゃんは「病気になりませんように」って、よくお願いに行ってたの。でも、去年病気になっちゃったのネ。そしたら、おばあちゃんは、お寺には行かないで、お寺の前にある病院に行ったの。ちょっと変だなって思った。
僕も、病気の時は病院に連れて行ってもらうよ。聖武天皇は、どうして病院ではなく、大仏を作ったのかな。
本当よね。聖武天皇は、どうして病院を作らないで大仏を作ったんだろう。
こゆさんは、ちはや君の発言に対して、「自分が見たおばあさんの行動」と、おばあさんの行動を見て「思ったこと」を発表しています。
「見たこと+思ったこと(根拠)」をセットで発表するよう指導を続けることで、「対話的な学び」が実現します
疑問に思ったことは、必ずなぜ疑問に思ったのか、「裏付けとなる知識や資料」を加えて発表させます。
「病気の時は、病院へ行く」が、この場合の「知識」です。
「聖武天皇は、なぜ病院を作らないで大仏を作ったのか」という学習問題ができあがり、「論点」が明確化しました。
「病気にならないようにと神様にお願いするのは当たり前」という、ちはや君の考えに「病気なら、病院でしょう」と自分の考えを示すことで、ちはや君の考えにかかわるこゆさん。
根拠に基づく、考えと考えのかかわりが、深い学びを生みます。
聞く力を鍛える
「主体的・対話的で深い学び」の実現のためには、発表する力を鍛えると同時に、「聞く力」も鍛えなければなりません。
発表者の方を見るとか、うなずきながら聞くとか。幾つかポイントがありますが、その中で最も大切なことを挙げるとすれば、
- 「つながり」を発見するために、聞く
その子の思いと、根拠となる事実・知識や資料との「つながり」を知るために聞く
その子の思い・考えの根拠を探るように聞くことを指導します。
その子が、「どんな事実とどんな事実がつながっている」と捉えているか、「どんな知識とどんな知識がつながっている」と捉えているか、「どんな事実とどんな資料がつながっている」と捉えているか、などです。
自分との「つながり」
もうひとつ大切なのは、発表者の子の考えと自分の考えの「つながり」を考えながら聞くように指導します。
質問を考えながら聞く
自分とのかかわりは、質問の形で意識させます。
~については、どのようになっていますか。私は、~だから、~だと思うけど
このように主体的・対話的で深い学びの実現は、一朝一夕に実現しないので、粘り強い指導の継続が必要となります。
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