林成之氏は、北京オリンピック競泳日本代チームに招聘され、選手たちの「勝つための脳」づくりに貢献し、大きな成果を収めた。その林先生が、「人の才能を発揮させる脳育」として書いたのが、本書「子どもの才能は3歳、7歳、10歳で決まる!」である。若い両親に読んでいてもらいたい良書。
脳の機能はどうすれば高まるか
「頭を使って脳を活性化させれば、脳の機能も高まる」といった誤った考え方が広まっています。しかし残念ながら、人間の脳の機能は高まりません。
「子どもの才能は3歳、7歳、10歳で決まる」より
クイズを解いたり計算を繰り返したりしても、~
たとえば、映像などで「頭を使ったら、脳の血流が増えた」などという実験結果を見せられると、「頭は使えば使うほどよくなる」と誤解してしまう人がいるようです。
しかし、脳の血流というのは、身体をつねるだけでも増えるものなのです。
林氏は、いわゆる脳トレでクイズを解いたり、計算をしたりしても、「脳機能は高まりませんよ」と指摘する。
ではどうすれば、脳機能を高めることが出来るのか。実は、「『脳の機能だけを高めよう』という発想自体が間違い」、だというのだ。
脳の機能をたかめるには 、脳そのものがもっている『本能』と、そこから生み出される『心(感情)』を一体として考えなければいけない、と言うのが本書の主訴だ。
脳の機能を高め、脳のパフォーマンスを上げるためには、『脳のもつ本能を磨き』、『よい心を育む』ことが、同時に必要。
脳の本能とは何か
脳には、「生きたい」「知りたい」「仲間になりたい」という本能がある。この根源的な本能は、「脳神経細胞」に刻み込まれている。
この本能から「自己保持」「統一・一貫性」そして、それを判断するための「自我」が生まれる。
そして、「生きたい」そのために「知りたい」という本能は、『好奇心』とか『探究心』とかいう心を生み出す。
脳は、情報を受け取るとすぐに、『この情報は「好きだ」とか、「興味がある」』というレッテル貼りをする。
「好きだ」とか「興味がある」とか『探究心』とか『好奇心』があれば、脳の機能としての理解力や思考力が有効に働きだす。
人の心は、本能を基盤にして生まれる
「生きたい」、「生き残りたい」そのために「知りたい」という本能があることで、「探究心・向上心・貢献心・自尊心」、そして「友情や愛情を感じる心」などが育まれる。
つまり、人間性を高めないと脳の機能は高まらない。だから、心の教育、道徳は重要だ。
クオリア
『クオリア』とは『感覚的な意識や経験』と説明される。また、「微妙な差異を判断して好悪(こうお) を感じる働き」とも説明される。
私は、社会科の教師として、
「具体的な活動」と「体験」と「経験」の差にこだわる。
- 「具体的な活動」とは、単なる体を動かす活動を指す。しかし、社会科の場合は、「活動」には、必ず「気付き」が生まれている。
その「気付き」を教師が見つけるために行うのが「具体的な活動」だ。
だから、「教師が具体的な活動」を仕組んでいるのに、「子どもの気付き」を何も見取っていないとしたら、「具体的な活動」を仕組む意味はない。
- 「体験」とは、主観的な活動だ。「児童・生徒が活動し、自らの気付きをもつ(ただし、「気付き」は、すぐに記憶から消え去る。気付いた当の本人さえ、放っておくとすぐに忘れる。」
- 「経験」は、客観的な活動。「活動を通して得た気付きを判断し、価値があるかどうかを客観的に検討する思考・作業を経ている。
このように語句にこだわりを持って使い分けている。
これが、『クオリア』である。微妙な差異を自分なりの言葉で説明しないと気が済まない。そういう感情や、「自分なりの判断」が「自我」の作用であり、「統一・一貫性」を求める脳の本能に由来する作用である。
自分なりの『考え』は、こうして生まれる。
このような思考は、一長一短では生まれない。同じようなことを繰り返し繰り返し考えていくうちに、「思考が深まっていく」。
脳育の目的とは
なぜ、脳育をするのか。
それは、
「社会の中で自分の師安濃を十分に発揮し、よりよい人間関係を築き、充実した幸せな人生」を送ることが出来るように、子どもの脳を育てるため
である。
子どもの脳と大人の脳には違いがある
人間の脳には、生後しばらく脳の神経細胞が増える時期があり、その後、不要な神経細胞を減らしながら神経回路を発達させていくという過程を経る。
そこで、育脳では「0〜3歳」「3〜7歳」「7〜10歳以上」をそれぞれ区切りとしてアプローチを変えていく必要がある、と主張している。
「3 歳、7 歳、10 歳」が重要なターニングポイントになる理由
子どもの脳の状態が大人とは違う
0歳からおよそ3年間は脳神経細胞が増え続け、脳神経細胞数は3〜4歳ごろにピークを迎える。
7歳ごろまでの間は逆に減る。この時期に死んでゆく脳神経細胞があるのだ。3〜7歳の問に脳の情報伝達回路がつくられるため、回路網の形成に邪魔な細胞を消去することが目的。よって、心配する必要はない。
7〜10歳以降、脳は脳神経細胞間の情報伝達回路を発達させていく過程に入り、やっと「大人の脳」となる。
0〜3歳の子どもの脳は、神経伝達回路が十分に発達する段階にはない、ということ。そもそも未熟な脳に無理な学習を強いることは脳にとって非常につらい作業なので、教育熱心な親御さんは注意が必要。
7〜10歳以降に神経回路をしっかり発達させていくには、この時期の過ごし方がとても重要。脳機能を本能や心と共にしっかり働かせること。脳をしっかり働かせることができるかどうかは、物事の考え方や取り組む姿勢など、日ごろの習慣のよしあしにかかる。
脳の神経回路のべースがつくられる3 〜7歳の間は、脳にとって悪い習慣をやめ、よい習慣を身につけるという「脳の基礎づくり」にこそ注力すべき。
7 〜10歳以降の脳は、間引きが完了し、脳神経細胞が樹状突起を発達させて神経回路をどんどん進化させる。子どもが自分から「ああしたい、こうしたい」と口にするようなコミュニケーションが育脳のカギとなる。
0〜3 歳で、脳の本能を磨き、「心が伝わる脳」を育てる。
3〜7歳で、脳にとって悪い習慣をやめ、「勉強やスポーツができる脳」のべースを育てる。
7〜10歳で、自ら学ぶ「本当に頭がよい脳」を育てる。
10歳以降は、よい習慣を存分に活かし、「才能を発揮する脳」を伸ばしていく。子どもの才能は後天的に伸びる。才能は環境によって変化するのだ。
脳を鍛える10の方法
① 物事に興味を持ち、好きになる力をつける
さまざまな物事に興味を持って前向きに取り組む姿勢、何でもやってみたいと思う積極性、情報に接したときに「楽しそうだな、好きになれそうだな」とポジティブにとらえられる明るい性格を育む。
性格が暗いというのは、言い換えれば「自分を守る自己保存の本能が強すぎて、慎重になってしまう。そのために、物事をポジティブにとらえる力が弱い」ということ。
指導者を好きになること
嫌いな人が発する情報には「嫌いだ、面白くない、興味がない」といったレッテルがはられる。
よって、子どもが先生の悪口を言い出した場合、お母さんは「そうね」と同調してはいけない。子どもが先生のことを好きでいられるように親は努力する必要がある。
② 人の話を感動して聞く
気持ちを動かすと判断力や理解力といった脳の機能が高まる。
話を聞いたときや新しい知識に触れたときに「すごいなあ」と感動すると、脳の持つ力をしっかり発揮できる。「すごいね」「面白いね」と子どもに話しかけることで、感動する力を育む。
③ 損得を抜きにして全力投球する素直な性格を育む
「素直な性格」とは、端的にいうと、「損得を抜きにして全力投球する」という姿勢。物事に対して常に手を抜かず、全力で取り組むことは、脳が持つ力を最大限に発揮することになる。
「いい加減にやっておけばいいんだよ。」などの声かけは、禁句だ。
④ 「無理」「大変」「できない」など否定的なことを言わない
人はつい「無理だろう」「大変だな」「できないよ」などと否定的なことを言ってしまうもの。このような否定的な言葉を口にしたり、否定的なことを考えたりしてしまうのは、脳の自己保存の本能の表れではある。
しかし、「無理だ」「できない」と考えると脳が情報にマイナスのレッテルをはってしまうので、思考力や記憶力はダウンする。
注意すべきは、否定的な思考は、真面目に物事に取り組む子どもが陥ってしまいがち。
「大変そうだな」と口にすれば、どんなに真面目に取り組んだところで、脳はしっかり機能しないし、しなくなる。
「できなかったらどうしよう」と心配すれば、できるはずのこともできなくなる。
ゴルフをやっている人は、一度は経験があるのではなかろうか。
「失敗したらどうしよう」と思った途端、現実にうまくいかなくなる。
「否定語」が脳に与える影響は無視できないのだ。
育脳においては、親は子どもに否定的な言葉を聞かせないようにすべき。子どもを常に励ましたり、頑張ったことやできたことをほめたりして、否定的な思考に陥らないようにする必要がある。
⑤ 目標に向かって一気に駆け上かる
物事に取り組む際、「決断・実行を早くし、一気に駆け上がる」ことが重要。
「本当にこれでよいのだろうか」「失敗するかもしれない」といった、脳によくない影響を与える思考が入り込まないようにするためだ。
「コツコツ努力しよう」ではなく、「目標を決めて、全力投球で一気に達成を目指そう」と教えるべき。
⑥「だいたいわかった」などと物事を中途半端にしない
自己報酬神経群は、「自分で決めたことを自分で達成したい」という気持ちによって働く。つまり、「達成した」と思った段階で自己報酬神経群の機能はしっかり働かなくなり、思考力などの脳の機能を落とす。
「もうすぐゴールだな」と思えば、それだけでスピードがおちる。
「だいたいわかったな」と思うと、思考力がダウンする。
「だいたい」「もうすぐ」という考えを持ち込むのは、脳に「止まれ! 」と命令しているようなもの。
「完壁を目指す」という姿勢や、物事が終盤に差しかかったときほど「ここからが勝負だ」ととらえるスタンスを身につけさせる。
⑦ 重要なことは復習し、繰り返し考える
脳には、新しい情報に瞬時に反応するという特徴あり。どうでもよい記憶や中途半端にしか覚えていない記憶は新しい情報によってかき消される。
物事をきちんと記憶するには、最初に情報を脳に取り込む段階でプラスのレッテルをはり、しっかり思考することが必要。
考える力を高めて思考を深めるには「繰り返し何度も考えること」も必要。
育脳において効率を重視することは間違いだ。「完壁を目指して復習する」「大事なことは繰り返し何度も考える」という習慣を身につけさせることにある。
⑧自分のミスや失敗を認める
失敗を認められないことは、脳を機能させるうえで大きな問題を引き起す。というのも、脳は具体的に達成すべき目標を明確にしてこそパフォーマンスを発揮するからだ。
脳は、「いつまでに」「何を」「どのように」するかを決めなければ頑張ることができない。
⑨ 人を尊敬する力をつける
人の気持ちを理解し、心を通わせ合える。「他人の脳と共鳴できる脳を育てること」が大切。
共鳴する脳を育てるには、「心を込めて話すこと」「相手の立場に立って考えること」「人を尊敬すること」などがべース。
人を尊敬することは幼いころから習慣づけることが必要。
親自身が他人を尊敬する力を身につける。
身近にいる大人がいつも誰かを見下したりバカにしたりしていれば、子どもも人を尊敬できなくなってしまう。
子どもと「すばらしい人だね」「すごい人だね」などと語り合う。
⑩ “類似問題”で判断力を磨く
脳の前頭前野は、「統一・一貫性」の本能を基盤にして「判断・理解」という機能を発揮する。 「統一・一貫性」の本能は「クオリア」という心を生み、人間はクオリアによって微妙な差異の好悪を感じ取っている。
前頭前野の「差異をより分ける」という機能は、人間に高度な判断力をもたらすだけでなく、緻密な思考を可能にする。
「ひょっとしたら、同じように見えるが微妙に違うのではないか」「もしかすると、同じかもしれない」などと、吟味できてこそ意味がある。
つまり、「微妙な違いを判断する力」なくしては、新たな発見や独創的な思考を生み出すことはできない。
独創的な思考を生む脳を育てるには、「統一・一貫性」の本能、「クオリア」、差異をより分ける判断力を、三位一体で磨くことが不可欠。
トレーニングには、幼いころから”類似問題” を考えさせることが有効。
「リンゴが二つあるけど、どっちの赤が好き? 」
などと、日常的に『質問』しながら育てることが大切。
コメント