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主体的・対話的で深い学びは「思いを発表できる、考えを聞きあえる『安心感のあるクラス』」の実現が前提

目次

「深い学び」を実現するための前提

アクティブラーニング『主体的・対話的で深い学び』の定義

 「主体的・対話的で深い学び」について、文部科学省はどのように定義しているのでしょうか。新しい学習指導要領の考え方を説明する資料を見ると、次のようになっています。

主体的・対話的で深い学びの実現

主体的な学びとは

 学ぶことに興味や関心を持ち、自己のキャリア形成の方向性と関連付けながら、見通しを持って粘り強く取り組み、自己の学習活動を振り返って次につなげる「主体的な学び」が実現できているか。

文部科学省資料より

 主体的な学びの要素をまとめると、以下の6点です。

  1.  学ぶことに、興味や関心を持っている
  2.  自己のキャリア形成の方向性と関連付けられている
  3.  見通しを持っている
  4.  粘り強く取り組んでいる
  5.  自己の学習活動を振り返っている
  6.  振り返ったことを次に繋げている

 興味とは、「ある対象に対する特別の関心」のこと
 関心とは、「注意が向く」「気にかける」こと

「自己のキャリア形成の方向性と関連付ける」とはどういうことか

 文字だけを読むと、子どもたちが全員「自分の将来の職業について意識し、その職業で一流になるためには、どうすれば良いか」という視点から「見通し」をもつ、ということになると思います。
 当然幾人かは、すでに将来の自分の職業を意識している子どももいるでしょう。しかし、文部科学省が、全児童・生徒がそこまで遠い将来を見据えることを想定しているとは思えません。
 ここでいう「事項のキャリア形成の方向性と関連付ける」とは、おそらく次に示す、3つの視点を指すのではないでしょうか。

キャリア形成のための第一の視点、「追究動機の明確化」

 「学習問題(学習課題)」に対して、「こうであってほしい」「こうなるといいな」などの仮説を立て、「自分の考えが正しいかどうかを知るには、こういうことを調べなければならない」などという、目の前の学習問題(課題)に対する、自分の追究動機を明確化すること、あたりを文部科学省も想定しているのでは無いでしょうか。

キャリア形成のための第二の視点、「自分に出来ることの明確化」

 自分の得意分野を知っていること。つまり、自分の強み、適性を事前に知り、さらにこの点、この分野の力を伸ばしたいという思い、願い、意思・意志をもっていること。

キャリア形成のための第三の視点、「学習問題(課題)解決のためにすべきことの明確化」

 問題(課題)解決のために「すべきことは何か」、「何が望まれているのか」、「そのなかで自分が担当して責任をもつべき点、分野は何か」を明確化すること。

 「自己のキャリア形成」という言葉を、あまりにも遠い将来の、遠大な計画ととらえると身動きがとれなくなります。上に示したような「目の前の学習問題(課題)に対応する」レベルで「キャリア形成」という概念を捉えてよいのではないでしょうか。

キャリア形成の三要素

〈参考資料〉

対話的な学び

 子供同士の協働、教職員や地域の人との対話、先哲の考え方を手掛かりに考えること等を通じ、自己の考えを広げ深める「対話的な学び」が実現できているか。

文部科学省資料より

対話的な学びの要素は以下の4点が示されています

  1. 子ども同士の協働
    (「供」は供物の意なので、好みません。「ども」を使わせていただきます。)
  2. 教師との対話、地域の人との対話
  3. 先哲の考え方に触れること
  4. 自分の考えを広め深めること

 ここで気になるのは、「子ども同士の協働」です。「協働」を次の通りに解釈すると、「協力して働く」となりますが、この「協働」の中には、「対話(話し合い)」が含まれていると捉えたいと思います。
 子どもにもっとも影響を及ぼすのは、私の経験上「教師」や「地域の大人」ではなく、「仲間の子ども」です。何にもまして、子ども同士の対話(話し合い)は重視されるべきだと思います。
 できれば、「子ども同士の対話、協働」と示してくれると良かったと思います。残念です。

深い学び

 習得・活用・探究という学びの過程の中で、各教科等の特質に応じた「見方・考え方」を働かせながら、知識を相互に関連付けてより深く理解したり、情報を精査して考えを形成したり、問題を見いだして解決策を考えたり、思いや考えを基に創造したりすることに向かう「深い学び」が実現できているか。

  1. 習得・活用・探究という学びの過程
  2. 各教科等の特質に応じた「見方・考え方」を働かせる
  3. 知識を相互に関連付ける
  4. より深く理解する(考えを形成する)
  5. 情報を精査する
  6. 問題を見いだす
  7. 解決策を考える
  8. 思いや考えを基に創造する

 ここでも、文部科学省に対して疑問があります。
まず、「探究学習」をどうとらえているのかという点です。探究学習とは、もともと「事実認識、課題設定、仮説設定、検証」の一連の学習過程を指します。それを、「習得・活用」は探究学習の過程に含まれるのに、なぜ「習得・活用・探究」としたのかが不思議です。
 もしかすると、「習得・活用」も大事ですよ、ということを表現したいが故に、あえて並列で表現したのかもしれません。

 次に「より深く理解する」と「考えを形成する」を別に期したこともよく分かりません。私の理解では、「考えを再構成すること」が「より深く理解する」ことです。おそらく、文科省も同じ理解だと思われますが。

ポイントは「問題を見いだす」が、6番目(真ん中から後半)に表記されていること

 つまり、「学習問題(課題)は、単元のはじめではなく、ある程度の追究の後、知識を習得した後に現れる、ということを表現したのだと思います。
この点は、探究学習(アクティブラーニング・「主体的・対話的で深い学び」)を、進める上での重要なポイントです。

〈参考資料〉

Microsoft PowerPoint – 【案】171013_新しい学習指導要領の考え方(講演用) (mext.go.jp)

自分なりの考えにこだわって行う「追究学習」

 文科省の定義・説明はある程度参考になりましたが、私にはわかりづらいものでした。説明を参考にして「主体的・対話的で深い学び」を、
『自分なりの考えに、こだわって行う追究学習』
と、理解しました。

 では、どうすれば「自分なりの考えに、こだわって追究する学習」を指導者として実現できるでしょうか。

友達など、他者のもつ「異論」の存在に気付かせる

 ポイントは、自分の考えとは違う「異論」があることを、子ども自身が気付けるようにできるかだと思います。

 自分とは違った考え方、「異論」の存在に気付き、その「異論」に対して「自分の考えとの共通点」や「相違点」を検討し、「学ぶべき点」は自分の考えの中に取り入れたりして修正している子ども、「異論」の存在に気付いた子どもは、それまでの自分の考えが揺さぶられています。

 こういう状態の時、子どもは、「自分の仮説が正しいか、調べたいという欲求」「追究する動機」が生まれています。
 「自分の仮説(考え)を証明するために、何が必要か」「何を追究する必要があるか」が明確化されます。
 さらに、自分の強みや特性を生かして調べる事ができるかを探ります。「絵を描くのが特異な子は、まとめたことを絵地図にまとめる」などをするかもしれません。
 数字の分析が特異な子は、集めた資料に示された数値から、「何かと何かの関係性を読み取る」かもしれません。
 もし、自分の特性に合わない場合は、役割分担をしてグループとして追究するかもしれません。
 このようにして、「自分なりの考えにこだわって、粘り強く追究」する学習が実現します。

 追究の結果、最初、視野に入っていなかった視点や観点を知り、その視点・観点を検討して、自分の考えを修正していく学習。
 多くの事実に基づいて自分の「考え」を補強していく学習。
 このような学習が、「自分なりの考えにこだわって、追究する学習」、つまり主体的・対話的で深い学びを実現するのだと思います。

かかわりを生む学級の存在が大切

 「自由に考えを発表し合うことができる学級」をつくるのは、言うほど簡単ではありません。「自由な発言が許される」「互いに聞き合う雰囲気が醸成されている」学級は、どちらかというと珍しいです。
 現役時代のある年に、中学校の第2学年を担当しました。自分の学年では2年間をかけて、話し合いができる雰囲気を醸成し続けてきました。
しかし、その年は、縦割りで第3学年の一クラスも担当することになりました。
 たった1年間の付き合いとなるクラスです。そのクラスで、2年間創り上げてきた学年と同じようなアクティブラーニング的な授業をしようとしましたが、見事に失敗しました。
 子どもの感情に響くような発問をしても、また学習経験、生活経験を想起させるような発問をしても、生徒たちが一切口を開かないのです。
 自分の思いを語るどころか、いわゆる記述的な知識としての単語すら発表しようとしません。
 小学校なら、1年間の指導で何とかなるかもしれません。しかし中学生対象で第3学年を1年間だけ担任するなどのような状況では、アクティブラーニングは、おそらく無理です。
 アクティブラーニング、つまり「主体的・対話的で深い学び」を実現させるためには、「話し合いが出来るクラスが必要です。それを作るには、教師の確固たる意志をもった指導が必要となります。

過去の体験(経験)に基づく、思いを発表できるように鍛える

 「話し合いができるクラス」に練り上げるために、教師は何を発問すれば良いでしょうか。この問いに「正解である単語を発表させる」と答える教師は、今では少ないと信じます。
 教師は、「思い」を発表させるように仕向けなければなりません。

 単なる正解を発表させるだけでは足りません。「思い」「感情」、「生活経験や先行する学習経験から得た思い、考え」などを同時に発表するように仕向けます。
 全体で無理なら、2、3人のグループ、5,6人のグループ、小集団などの場を設定し、発表のプレッシャーを小さくすることから始めます。

 この子の発言は、どんな体験・経験に基づいているかを聞くように指導します。発表と同時に聞き方も徐々に鍛えていくわけです。

 本当に地道な努力を続けないと、安心して発表できるクラス、聞き会えるクラスは実現できません。

子どもの気付きや考えを生かす教師の工夫が大切

 以前、堀川小学校の「プレゼントを作ろう」という家庭科の授業を紹介しました。その中で、ある女児が「病気のおじさんにプレゼントをする」という発表をしたことを記しました。その続きの話をします。
 女児の発表後、また別の女子が立って発表しました。「私は皆の話を聞いて、考えが変わりました」と言うのです。そして、『最初は、友達にプレゼントを作ろうと考えていたが、妹にプレゼントをつくることに変えた』と言います。
 その発表に対して、クラスのだれかから「どうして?」という質問がありました。
 教師は、考えを変えたという女子に向かって、「○○さんが、どうしてって言っているよ」と子ども同士がかかわれるように促しました。
 女児は質問者の方を見ながら答えます。要約すると、『自分には妹が居て、普段はケンカがばかりしている。昨日もテレビのチャンネル争いで、妹を泣かしてしまった。普段ケンカばかりだけど、本当は私は妹が好きだ。さっきの友達の発表に、『大切な人だから』という意見があったが、妹は本当は大切。ごめんね、という気持ちはあるけど、形に出来ないでいたので、妹にプレゼントを作ると考えを変えた。』というような内容を発表したのです。
 聞き取れるか、聞き取れないかのボソボソとした話し声だったことが印象に残っています。しかし、この小さな声の発表をクラス全員が聞き入っている、そういう印象ももちました。
 子どもの気付き、思い、考えを、教師は捉え、子どもたち全体へ位置付けます。このような地道な作業を何回も、何十回も繰り返すことで、やっと「このクラスは、自分の思いを発表しても大丈夫だ」「みんなが自分の考えを聞いてくれる」という安心感が生まれます。
 現代の子どもたちは、自己存在感、自己有用感が乏しいですが、このようなクラスで育ったら、自己存在感、自己有用感の高い子どもに育つでしょう。


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まとめ

主体的・対話的で深い学びは『安心感のあるクラス』」の実現が前提
「安心して自分の体験や経験に裏打ちされた思いを発表できるクラス
互いの考えを、しっかりと聞きあえるクラス

 

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