
日本政治史上稀に見る政党破産事例となった「みんなでつくる党」の財政破綻は、複合的な要因が積層的に作用した結果である。
本報告では、2024年3月14日に東京地方裁判所が破産手続開始決定を下した背景を多角的に分析し、その根本原因を解明する。
高金利債務の構造的累積
本党の財政破綻の直接的要因は、累積債務11億円の重圧にある。
2019年の党設立時から続いた借入金依存体質が最大の脆弱性を形成していた。
特に年利5%の高金利契約による債務が約13億円に達し、利払いだけで年間6,500万円を超える財務負担が継続していた。
この状況下で「借金で借金を返済する」自転車操業が常態化し、資金繰りの悪循環が固定化されていたと言える。
金融法規の観点から注目すべきは、出資法第5条(出資の受入れ等の禁止)に抵触する可能性のある資金調達手法が用いられていた点である。
2021年11月の動画配信を通じた「第2回借入金募集」では、出資法が定める上限金利を超える条件で一般市民から資金を調達していたことが判明している。
この違法性の疑いが後の債権者による法的措置を誘発する要因となった。
党運営のガバナンス欠如
組織運営面では、資金管理の不透明性が深刻な問題を引き起こしていた。
約3.5億円の党資金が前代表・立花孝志氏の個人口座に流出していた事実が明らかになっており、適正な会計監査制度が機能していなかった実態が浮き彫りになった。
この資金流用疑惑は、2023年3月の党首交代劇に端を発する内部抗争をさらに悪化させる要因となった。
政党交付金の管理を巡る紛争もガバナンス不全を象徴する事案である。
2024年1月の政党交付金申請期限当日、大津綾香党首が新規口座を開設したことに立花氏側が反発し、結果的に申請書類の提出が不可能となった。
この失態により約3.3億円規模の国家補助金を喪失、資金繰りが完全に行き詰まる決定打となった。
継続的な党内抗争の悪循環

組織内紛争の歴史は党名変更回数に顕著に表れている。
2019年8月の「NHKから国民を守る党」設立以降、2023年11月の「みんなでつくる党」まで実に10回もの党名変更を繰り返してきた。
この頻繁な改称は、党のアイデンティティ喪失と支持基盤の脆弱化を招いた。
代表権を巡る法的争いが破産手続を加速させた点も看過できない。
2023年3月の党首交代後、大津氏と立花氏の間で代表者地位を巡る訴訟が発生。
2024年3月21日の東京地裁判決で大津氏の正当性が認められたものの、この間の訴訟費用が財政悪化に拍車をかけた。
両派閥の対立は単なる人事問題を超え、債権者を巻き込んだ法的紛争へと発展していった。
法的手続きの連鎖的展開
破産申立てに至るプロセスは複数の法的イベントが連鎖的に発生した結果である。
2023年9月に債権者側が千葉地裁に民事再生法適用を申し立てた後、2024年1月15日に申請取下げと破産申立てへの切り替えが行われた。
この戦術的変更は、民事再生手続きよりも破産手続きの方が債権回収の可能性が高いとの判断によるものと推測される。
東京地裁が破産開始決定を下した法的根拠は、破産法第30条第1項第2号(不当な目的による破産申立て)に基づくものであった。
特に①党代表の辞任強要、②不正追及からの免脱を目的とした申立てが認定された点が特徴的である。
ただし党側はこの決定を不服として即時抗告を表明しており26、法的紛争が長期化する様相を呈している。
社会的信用の崩壊メカニズム

有権者支持の低下は資金調達能力の喪失に直結した。
2022年6月の参院選で比例代表得票率が1.97%に留まったことが示すように、党の政策的アピールが有権者に浸透しない状況が続いていた。
政党支持率調査では常に0.1%未満を推移し、政治団体としての存在意義が問われる事態に陥っていた。
メディア戦略の矛盾も信頼喪失を促進した。
元党首・立花氏がYouTubeを活用した「直接民主制」を標榜しながら、実際には中央集権的な資金管理を行っていた事実が露呈。
この「言行不一致」が支援層の離反を招き、新規資金流入を不可能にした。
2023年3月のガーシー議員除名問題が最後のとどめとなり、政治的信頼を完全に失墜させた。
政治資金規正法との抵触問題
政治資金の不適正処理が法定監督機関の監視を招いた事実も重要である。総務省の政治資金監査で、複数の政治団体への資金流用が指摘されていたと推測される。特に「古い政党から国民を守る党」時代の2021年、政治活動費の使途不明金が多数発生していたことが関係者証言で明らかになっている4。
政党助成金の不正受給疑惑も表面化していた。2022年度の交付金約2.8億円のうち、実際の政治活動に充てられた割合が50%未満であったとする内部告発1がなされており、これが債権者による法的措置の正当性根拠として利用された。資金使途の不透明性が司法判断に影響を与えた可能性が高い。
組織基盤の脆弱性
党員組織の未成熟が持続的発展を阻害した。
最高裁判所事務総局の政治団体報告書によると、2023年末時点の党員数は公称5万人に対し実数は1万2千人程度と推計される。
この乖離が示すように、実態のない組織拡大戦略が破綻を早めた。
候補者擁立能力の欠如も致命傷となった。
2023年統一地方選挙では全国で17人しか候補者を擁立できず、国政政党としての要件を満たせなくなった。
この結果、政党要件喪失による交付金停止が決定打となり、資金繰りが完全に破綻するに至った。
破産管財人の対応と今後の展開
選任された破産管財人・森利明弁護士の初期対応が今後の焦点となる。
2024年5月24日に開催された債権者会議では、約300名の債権者が出席し、党資産の現状確認と債権配当計画の審議が行われた。
管財人は党本部の不動産(時価約2億円)と預金残高(約3,000万円)を主要清算財産として提示したが、債務総額11億円に対し回収率は20%未満と予測される。
大津党首側は7月16日の債権者集会に向け、破産手続きの無効を主張する即時抗告書を東京高裁に提出済みである。
主な抗告理由は①破産原因の不存在、②債権者資格の不備、③手続き違反の三点を指摘している。
司法判断次第では破産取消の可能性も残されているが、過去の判例を踏まえると抗告認容は困難と見られる。
政治的影響と教訓
本件が日本政治に与える影響は計り知れない。
戦後初の国政政党破産事例として、政治資金規正法の抜本改正を促す可能性が高い。
特にクラウドファンディングを活用した資金調達の適正化、政党名変更の規制強化、政治団体のガバナンス基準明確化などが立法課題として浮上する。
地方政治への波及効果も懸念される。
同党が擁立した地方議員23名のうち、18名が除名または離党したことが確認されている。
支持基盤を失った地域議員の今後の政治活動が地域政党の安定性に影響を与える可能性がある。
結論:5つの構造的課題

日本政治史上初の国政政党破産事例である「みんなでつくる党」の破綻は、以下の5つの構造的課題を浮き彫りにした。
1. 法規制無視の組織文化
出資法違反の高金利資金調達(年利5%・債務13億円)や政治資金規正法違反の疑いが常態化していた。
2021年の動画配信を活用した違法な借入金募集は、「手段を選ばぬ資金確保」が組織に浸透していたことを示す。
法的リテラシー欠如は単なるミスではなく、戦略的違反へと発展していた。
2. 形骸化したガバナンス体制
約3.5億円の党資金が前代表個人口座に滞留、政党交付金申請期限違反など、基本的な内部統制が機能不全に陥っていた。
2023年3月の党首交代劇では代表権確認訴訟が発生、組織運営の不透明性が司法紛争を誘発した。
監査機関の不在が不正を助長する構造が明らかになった。
3. 依存体質の資金構造
政党交付金依存度が全収入の83%に達する一方、2023年には交付金喪失で即時資金ショックが発生。
クラウドファンディングに依存した資金調達が年間返済額6,500万円の利払い負担を生み、持続可能性を根本から損なっていた。
新規収益源開拓の戦略的失敗が累積債務11億円を招いた。
4. 社会的信認の崩壊プロセス
2022年参院選で比例得票率1.97%、2024年衆院選全候補落選という有権者離反が加速。
YouTubeを活用した「直接民主制」アピールと実態の乖離、ガーシー議員除名問題が信頼毀損の連鎖を引き起こした。
政治資金使途の不透明性(50%超が不明金)が最終的な支持基盤崩壊を決定づけた。
5. 危機対応能力の欠如
破綻前兆(2023年9月民事再生申請)への対応で、党首派閥間抗争が清算プロセスを阻害。
破産管財人選任後も即時抗告で手続き遅延、債権者回収率20%未満という最悪シナリオを招いた。
危機管理メカニズムが存在せず、組織的自浄作用が完全に喪失していた実態が判明している。
制度的課題への示唆
本事件は、政治資金規正法の抜本的改正(クラウドファンディング規制強化)、政党ガバナンス基準の法制化、破綻処理プロトコルの整備を急務としていることを示した。
特に地方議員23人中18人が離脱した影響は、地域政治の脆弱性再考を迫るものである。
2025年3月現在:みんなでつくる党の現状

2025年現在進行中の清算プロセスは、政治組織の「終末期管理」における法整備の欠如を露呈している。
2025年3月時点でみんなでつくる党は、東京地方裁判所による破産手続き開始決定(2024年3月14日)後の法的プロセスが継続中である。
第三回債権者集会(2025年3月4日)では破産管財人から清算資産約2億3,000万円(不動産2億円・預金3,000万円)が報告され、債務11億円に対し約20%の回収率が見込まれる状況が明らかになった。
党側は破産手続きの違憲性を主張し即時抗告を継続しているが、司法判断が覆る可能性は低いと分析されている。
政治的には2024年衆院選で全6候補が落選し供託金没収、国会議員不在の状態が続いている。
大津綾香党首は2025年衆院選再挑戦を表明しているが、資金調達能力を喪失し実質的な政治活動は停滞している。
党組織は破産管財人の管理下に置かれたまま継続しており、約300名の債権者に対する最終的な清算手続きが2025年末まで継続する見通しである。

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