今や、暮らしに欠かせないQRコード。『大変便利』、しかも多少変な格好で読み取ってもきちっと読み取りができる優れモノ。このQRコードの開発者は、実は日本人。しかもこの方、QRコードの特許技術を惜しげも無く無料で講評してしまっている。結果、世の中の発展に大いに貢献した。この方は原昌宏氏。デンソーの現役の社員さんだ。このブログでは、QRコード開発の秘話にせまる。
QRコードを創ったのは何と日本人
2023年9月15日金曜日、株式会社デンソーウェーブの主席技師の原昌宏氏に、法政大学は名誉博士号を授与した。
QRコードを発明した功績に報いるためだった。
QRコードとは、『Quick Response』、『クイック・レスポンス』コードの略。
特許を無料開放したQRコードの開発者:原昌宏氏の学歴
原昌宏氏は、法政大学第二高等学校から法政大学に入学。工学部電気工学科を卒業後日本電装株式会社(現株式会社デンソー)に入社している。
法政大学は、原氏の功績を称え、この日、氏に名誉博士号を授与したのだった。
QRコードを開発のきっかけ
原氏は、デンソー入社後「製造業と物流業の製品管理」にかかわる問題解決目的で、バーコードスキャナやOCR(光学文字認識)装置の開発に携わっていた。
1992年(平成4年)、バブル崩壊で多くの企業が苦しんでいるとき、原さんの会社デンソーにも不況の波が押し寄せていた。
原さんのかかわる『バーコード事業』も窮地に陥り、上司から『次の市場を創造するような新たなモノを創れ』
と、命じられた。
バーコードにはできないことがあった。
『汚れると読み取れなくなる』
『バーコードに組み込める情報量が少ない』
という点。
開発を命じられたが、その事業に十分な予算は付けられなかった。
すると原さんは、すっぱりと『新たなハードウェアー開発』を断念。
代わりに智慧とアイデアでできる『コード開発』に勝負をかける決意を固めた。
しかも、『2年で開発を完成させる』
と、自ら期限を区切った。
私たちは企業での開発なので、『2年くらいでやらないと次はないのかな』という気持ちで、2年という形で期間を設定してやらせてもらったんです」
QRコード開発のきっかけ
自動車工場の部品管理で使われていたバーコードは格納できる情報量が少なく、必要な情報をすべて書き込むことが出来ないことがあった。
また、工場の油などで少しでも汚れると、正確に読み取れないというトラブルも多く発生していた。
それに対し、開発されたQRコードは、数字なら最大7089文字入れることができる。さらに、英数記号や漢字でも、QRコードの中に入れることができる。
まさに、画期的。
だが、金なし時間なしの状態でのQRコードの開発は並大抵では無かった。
開発が始まったのは1992年。
それからわずか2年後の、1994年8月8日には、原さんが宣言したとおり「QRコード」を完成させている。
QRコード開発に立ちはだかった壁
『大量のデータを、超速スピード読み取らせる』には?!:ヒントは囲碁にあった
開発がトントン拍子に進んだわけではない。苦難の連続だった。
最初に立ちはだかった壁は、『超高速で情報を読み取るには、どうしたらよいか』という課題。
この第一の課題、『超速スピードでの読み取りの実現』のヒントは、以外にも原さんの趣味の一つ、『囲碁』の中にあった。
『一瞬で大量の情報を正確に認識する方法』、
口で言うのはたやすいが、実現するのは難しい。
だが原さんはひらめいた。
そうか、情報を囲碁のように格子状に並べれば良いんだ。
碁石を置く時、マス目に対して正確な位置におけず、ちょっと横にずれてしまう時がある。
これをデータに見立てて考えてみるとどうなる…、
碁石の位置が少しずれていても、白と黒の並び方や順番は同じだ。
だとしたら、コードを読み取るリーダー側のプログラムを変更して、『格子の並びや順番を“正確に”ではなく、“大雑把に”読ませる』ようにすればいいんじゃないか!
原さんは『精密にでは無く、大雑把に解読させる』という発想の転換を思いついた。いわば人間的な『遊び』の発想を精密機械に取り入れたのだ。
これにより、読み取りスピードは飛躍的に向上し、0.03秒という超速スピードでの読み取りが可能となった。
QRコードの形に隠された秘密
比率は、「1:1:3:1:1」
QRコードは、白と黒の四角形が重なっただけの単純な形をしている。
この単純な形から、どうやって情報を読み取ることができるのだろうか。
秘密は、『白黒の比率』に隠されている。
たくさん情報を盛り込んだとしても、読み取る機械の方が、『これはQRコードだ』と、認識できなければ話にならない。
そこで、原さんたちは、読み取り側が『これは、QRコードだ』と分かるような工夫をした。
その工夫こそ、この四角の「1:1:3:1:1」という比率にある。
比率はどんな方向からスキャンしても変わることは無い。
すごいのは、原さんたちが、「1:1:3:1:1」という比率が、世の中に存在していない比率だということを発見したことにある。
この比率を見つけるために『本や雑誌、新聞、全部で5000ページを超えるページに載っているすべての文字や図形を調べたんですよ。
「作るからには、世界中に広めたいと思いましてね、日本語の漢字だけでなく、アルファベットや韓国のハングル、中国の漢字、アラビア語など、主要な言語すべての文字の白黒の比率を調べました。
そうしたら、『1:1:2』とか『1:4』とか偶数系が多くて奇数系が少ないことに気が付いたんです。
そこで、極端に少ない『1:1:3:1:1』をコードの中に入れればいいんじゃないかと思ってやってみました。
QRコードを簡単にするために、簡単では無い努力があったのですね…。
平面では無い場合どうすれば良いか
次に課題となったのは、飲料用の缶など面が平面では無い場合。
当然、QRコードはゆがんでしまう。
形を修正して認識させるには、どうすればよいか。
コードの中に、小さな「アライメントパターン」と呼ばれるシンボルを入れることを思いついたのだ。
この四角の形が崩れて読み取られたとき、それを補正することで、ゆがんだQRコードを平面として認識できるようにした。
QRコードの右下の方にある白黒の四角の形がこれだ。
QRコードが汚れてしまった場合どうすれば良いか
QRコードが『汚れてしまったらどうするのか』
『少々の汚れは大丈夫!』
QRコードには復元機能がある。
QRコードの中には、『「10」「20」「30」というデータがあるとする。それを全て足したときに「60」という数字になる』という情報も一緒に入っている。
仮に、「20」という数字が汚れて見えなくなっていたとする。だが「10」と「30」に何かを足したとき「60」になるというデータも書き込まれているので、見えないデータは「20」だということが分かる。
一般的なQRコードは最大で30%くらいが汚れても、情報を正しく読み取ることができる。
地下鉄などで遣われているQRコードは、さらに改良が加えられ、50%程度が汚れたり、光の関係で見えなくなったりしても、認識できるようになっている。
すごいもんだ。
四隅では無く、三隅にしか四角が無いのはなぜ?
四隅にではなく、三隅にしか四角形が無いのは、QRコードを仮に反対から読み取らせても、正確に位置を補正して読み取らせるためだ。
上二つの四角、左下の四角で、どちらが上で、どちらが左かを認識している。
傾いた状態でQRコードを読み取らせても、勝手に正しい位置に補正して読み取ることが可能なのは、これがあるからだ。
特許を未無償で公開
すごいのは、この素晴らしい技術を、原さんはJIS/ISO規格に準拠したQRコードであれば誰でも使えるように敢えて特許を開放している点だ。
お陰でQRコードは、現代の情報化社会ではなくてはならない社会インフラストラクチャーに成長している。
この功績が認められ、原さんは、日本学士院賞および恩賜賞を受賞、さらに欧州発明家賞を受賞されている。
まとめ
現代の我々の生活に無くてはならなくなった、QRコード。
このコードを開発したのは、日本人原昌宏さん。
彼は、現役のデンソーの社員。
QRコードで、特許を取ったが、その特許を無償で一般に公開している。
だから、だれでも仕える。現在の世の中が進歩の一端を彼が担っている。
最後に、原さんの言葉を紹介する。
「駅に外れ馬券がたくさん捨てられていて、そこにQRコードが付いていました。それを目にしたときはやはり感激しました」
と、述べている。
駅の片隅に捨てられた外れ馬券にさえ、QRコードがついている。
今や、人々に意識されないような場末のゴミにさえQRコードがついている。
我々の生活に無くてはならない技術は、原昌宏という日本人によって創られた。
コメント