6月11日『自動車・二輪車メーカー5社による量産に必要な認証「型式指定」の不正申請に絡み、国土交通省が、トヨタ自動車で判明した不正行為6事例について、国の基準だけでなく日韓や欧州を含む62か国・地域が採用する「国連基準」にも反するとの見解をまとめたことがわかった。国内と国連で乗用車の基準は合致しており、同じ不正があれば欧州などでも量産できない可能性が高い。』(読売新聞)と主張。
一方、トヨタ側は、『不正』ではなく『不備』を強調し、『より厳しい基準で試験していた』と主張した。
今回のトヨタの認証試験にかかわる行為は「不正行為」なのか「不備行為」だったのか、トヨタ側の記者会見から探ってみました。
トヨタが国交省から、「不正」を指摘された6つの事例とは(6月3日記者会見)
トヨタの豊田章男会長が、国交省から指摘を受けた7車種にかかわる、6つのいわゆる「不正」に関して謝罪をしました。
その際、①から⑤は、認証試験にかかわる、手続き上の「不備」、⑥の『エンジン出力』については、①から⑤までとちょっと違い、もしかすると「不正(改竄?)」かな、と思われる内容でした。
①「前面衝突時の乗員保護」について
- 2014年 15年当時クラウンとアイシスのモデルチェンジ の際に、エアバッグをタイマー着火した開発実験データを認証申請に使用した
この2車種のモデルチェンジ の際の認証試験で、
● エアバッグをタイマー着火した開発実験データを認証申請に使用した
とのことです。
タイマー着火とは、何?
など、専門的な疑問もありますが、今回のトヨタの主訴は、
開発実験データを、そのまま認証試験のデータとして提出してしまった手続き上の不備
(で不正ではない。)
という点にありました。
しかも、開発実験データを取ったときの条件は、『「認証試験」で想定されている条件より、厳しい条件』で行っていた、と強調しました。
だが、手続きとしては、「基準として定められている(トヨタ基準より、緩い)条件」で、もう一度試験する必要があった」が、トヨタはそれを怠ってしまった。
だから会見で、「手続き上のミスを犯したので謝罪する。」としました。
②「オフセット衝突時の乗員保護」について
- 2015年当時、カローラの開発の際に歩行者と車が衝突した際の頭部へのダメージを確認した試験
・より厳しい試験条件の開発 試験データを、認証申請にしてしまいました。
6月3日 トヨタ側の記者会見より
・なお、図の通り、衝撃 角度 65 度の方が より厳しい試験条件となります。
・本来ならば 飛行機で定められた衝撃 角度 50度で、改めて試験を実施し、そのデータを停止することが必要でした。
・ところが、開発 試験データを申請に使ってしまいました。
②についても、トヨタ側は「より厳しい試験条件」で開発時に試験したデータを認証試験データとして提出した。
『より厳しい条件でテストしたのだから、改めて基準として定められている衝撃角度50度で試験し直す必要は無い』と現場が判断してしまった。
というようなニュアンスが感じ取れました。
しかし、この点について国交省は、
トヨタは、「65度の方がより厳しい条件」だと主張したが、一概にそうは言えない。
ボンネットの形状によって、50度の方がより厳しい条件になることもある。
よって、規定通り衝撃角度50度で試験をしなかったのは、不正である。
と、6月11日に発表しました。
国交省が「車種によって、衝撃角度50度の方が厳しいこともある」というのなら、
トヨタは、『国交省は車種により結果が異なると言うが、カローラの認証試験なのだから、カローラは65度の方が厳しい条件だ』と明確に主張したらよい、と思います。
この点、国交省が「トヨタの主張は、ベタラメ(とまでは言ってはいません。読み手に自ら「そう言った」と感じさせるような内容)だ」、と言っているのだと思います。
しかし、カローラの形状を想像すると、ボンネットに守られやすい50度より、やや上からの65度から衝撃を受ける方が、条件としてより厳しいと感じられます。
実験をすればすぐに結果が出るでしょうから、明確なデータをもってこの点だけは、国交省にきちっと反論してほしいと思います。
③「歩行者の頭・脚部の保護」について
- 2015年当時、カローラ・シエンタ・クラウン の開発の際に、歩行者と車が 衝突した際の、保護者の頭部や 脚部へのダメージを確認した 開発試験
③について、トヨタは以下ように述べました。
⑴臨床で申請した測定部位と、 実際にぶつけた位置が、左右で逆のデータを使ったことや、片側のデータを両側分度データとして 認証申請に使用してしまいました。
6月3日 トヨタ側の記者会見より
⑵車両上 左右で結果に差が出ない試験項目ということが確認出来ております。
⑶本来ならばもう一度 選定された 測定位置にて 認証試験を実施し、そのデータを提出することが必要でした。
⑷また、測定値の決定は事前に 認証機関に申請をし、合意をいただく プロセスをとっておりますが、開発途中での構造変更や技術的な検証が進む中で、測定で変更に関する認証機関とのコミュニケーションが不足していたこともあったと考えております。
⑴に、「ぶつけた位置が左右で逆」と言っていますが、本来『左右両サイドにぶつけて試験する必要があった』ようです。
残念ながら、トヨタはこの点を曖昧にしたようです。
ですが⑵で、一方の側のデータしか取っていませんが『左右で結果に差が出ないので(一方の試験で十分です)』と主張したかったようです。
⑶で、「本来なら もう一度 選定された測定位置にて 認証試験を実施~」と述べています。
この点は、大いに気になりました。
つまり「本来、基準として決められていた位置ではないところにぶつけて、データを取った?」ということなのでしょうか。
⑷についても、納得がいかない点がありました。
「開発途中での構造変更や技術的な検証が進む中で、測定で変更に関する認証機関とのコミュニケーションが不足」とは、どういう意味なのか分かりませんでした。
記者の方々は、理解できたのでしょうか?
私には、
「開発段階の車と、量産体制前提となった完成車で、形や性能に差が生じていた。だけど、その差を考慮せずに開発段階の車のときにとったデータを、そのまま使用してしまった。」
と言ったのではないかと思えてしまいました。
だとしたら、これは「不正」と言われてもしかた仕方が無いレベルではないか、とも感じられました。
出来れば、記者の誰かがこの点を突っ込んでほしかったのですが…。
④「後面衝突」について
これは、トヨタ側の主張として、もっともわかりやすい内容でした。
- 2014年当時のクラウン、2015年当時のシエンタの開発の際に、後面衝突による燃料漏れ等の試験
③について、トヨタは以下のように述べました。
・より試験上限の厳しい台車を用いた開発試験データを 臨床申請に使用してしまいました。
6月3日 トヨタ側の記者会見より
・法規基準の1100キロより重たい 1800キロの評価用台車を使用し、より大きな衝撃で評価をしました
・本来ならば 再度法規で定められた1100キロの評価用台車を用いて認証試験し、そのデータを提出することが必要でした。
これに関しては、
『あえて、基準を下回る車をぶつけてデータを取り直す必要はない』
と思えます。
⑤「積み荷移動の防止」について
- 2020年 当時の ヤリス クロス の開発において、衝突時の積荷の移動による後部座席へのダメージを調べる試験
⑤について、トヨタは以下のように述べました。
・工期の変更で、積み荷ブロック の要件が追加されておりました。
6月3日 トヨタ側の記者会見より
・認証申請では、古いブロックを使った開発データを使用してしまいました。
・本来であれば新しいブロックで 試験し、そのデータを提出すべきでした。
⑤については、「トヨタの不正」と言われても仕方が無い事例だと思われます。
「開発機関のデータは、古い要件の時の条件下で行われた」ことに築かなかったのか。
それとも本来認証試験を行うべき部署(データを国交省に提出する部署)は、「気付いていたが、あえて無視したのか。」
このあたりは、きちっと質問してほしかったのだが…。
⑥「エンジン出力」について
- 2015年当時、レクサス・RX用のエンジンの開発において、エンジン出力を確認した認証試験
⑥については、①~⑤までとは若干違ったニュアンスがありました。
⑥について、トヨタは以下のように述べています。
この試験において、ねらった出力が得られませんでした。
⑴この試験において、ねらった出力が得られませんでした。
6月3日 トヨタ側の記者会見より
⑵本来は、問題が発生した際は、立ち止まり、原因究明の上、対策をすべきでしたが、
⑶ねらった出力がえられるようにコンピュータ制御を調整し、再度試験をしたデーターを使用してしまいました。
⑴で⑥のみ、開発時のデータではなく『きちょっと臨床試験を行った時のこと』だとしています。
臨床試験の時、『ねらった出力が得られなかった』と言います。
では、そのときトヨタはどうしたのでしょうか。
⑵で、『本来は、問題が発生した際は、立ち止まり、原因究明の上、対策をすべきでした』とあります。
はっきり言って、ピントが外れているように感じました。
『ねらった出力が得られない原因究明』と『認証試験のデータ』とどう繋がるのでしょう。
⑶に『ねらった出力がえられるようにコンピュータ制御を調整し、再度試験をしたデーターを使用』とあります。
⑴から⑶の文章を素直に解釈すると、
⑴「出力が得られなかった」ので、⑵「原因究明をせず、データを改竄し」、⑶「ねらった数値(国交省の示す基準)になるようにデータを改竄しました」
と言うことなのだろうか❓❓❓。
おそらく、トヨタ側の意図は違うのだろう。
だが、言っていることが不明瞭だったので、上記の様な誤解をする人もいたのではないだろうか。
残念ながら、この点についても記者からの質問はありませんでした。
記者からは、どんな質問が出ていたか
日本経済新聞記者より
『何で不正が起こって、不正が起こっているという声が上がってこないのか、見過ごされていくのか』
「不正」?
トヨタは、「不正」と言うより「不備」だったととらえていました。
この点を正さずに、いきなりこの質問をしてもなあ、と思いました。
トヨタ会長回答・概要
●認証試験という国が定めたルールに則っていない事例が、数万件中6件出た。
●トヨタは、国の基準より厳しい基準で開発段階で試験をしてデータを取っている。
●それを改めて、もう一度認証試験という軽いルールでデータを取り直すことに疑問をもってしまった現場の人間もいた。
●だから、安心・安全という視点から見たら、トヨタは国の基準以上の事をやっている。
●ただし、認証試験というルールがあるので、それに従ったデータをきちっと取って、国に提出する必要があった。
(だから、今回の件は「不正」ではなく「不備」だった)
●「不正(不備)」の理由は一つではない。
●現段階では、各工程が成すべき工程が標準化されていない。
そこで、『モノと情報の流れ図』を作成し、1年を超える作業工程・複数の企業にまたがる作業工程の洗い出しをし、認証試験が的確に行われるように、作業・責任の標準化を図っている最中。
宮本眞志カスタマーファースト推進本部長
●法規的にプロセスを踏むことが大切。トヨタは今回それを怠った。
ただし、トヨタは安心・安全な車作りという点で、それに答えられる国の基準以上に厳しい条件下で試験をやっている。
●自負が強すぎて、認証プロセスを踏むことに配慮が足りなかった。
●背景に、「忙しさ」などで、『試験データを取る時間が惜しい』『開発時に、より厳しい条件下でデータを取っているのだから、下回る基準で再度データを取る必要はないと、判断』するなどの要因があったかも知れないので、調査中。
日経の記者さんからの2問目は「『現場の負担感』について、豊田章男会長がどう考えているか」を問う質問だった。
必要な質問だったのだろうか。
日刊児童新聞より
グループの不正が相次ぎ発覚していたが、トヨタ 本体のこの不正が、なぜ見逃され続けたのか。発覚 が遅れてしまった背景は何か。
なぜ同じ内容を聞くのでしょう。
日経の質問・トヨタ側の答えを理解できなかったのでしょうか。
2点目の質問は、
制度論も含めて自動車メーカーでの共通している課題感はあるか。
おそらくトヨタ側は、『国が定める基準より厳しい基準で試験しているのに、どうして再度軽い基準で試験をやり直す必要があるの』
と、思っているのでしょう。
この記者さんのみならず、参加者の多くが言外のトヨタの主張を読み取ったはず。
『トヨタは、今の国が定める認証思念制度の在り方に違和感をもっていますか。』
という内容の質問だったようだ。
そして、豊田章男会長は、当然もっているのだが、『今この場で語るべき事では無い』とのみ、答えていました。
またこの点について、中日新聞の記者さんから、『(国にしっかり要望する)千載一遇のチャンス』という、質問というより、自身の意見表明のようなものもありました。
産経新聞記者より
現場の方たちには、不正の意識がなかったという解釈でよろしいか。
安全 安心の車づくりのために、現場がやっている試験と、認証プロセスで求められている手順等の間にギャップがあり、温度差がある。
結果的に不適切という風になっているということなんでしょうか。
実にシンプルで、わかりやすい質問。
内容の確認だけではなく、不明確な点に踏み込んでほしかったのだが…。
日経・クロスネックより
会長が1月30日に、「今回、認証不正をやった企業は、会社を作り直すくらいの覚悟が必要だ」とおっしゃった。
これだけ社会問題にもなった事案に対して、トヨタからこれまで声が上がらなかったというのは、危機意識が薄くなっていたのではないか。
前段から推測すると、
「会長は不正をやった企業は、会社を作り直す覚悟が必要」と言ったのだから、トヨタを造り直すのか。」
と質問したかったのだろう。
だけれど、後半部分で、トーンダウンして
危機意識が薄かったのでは?
ほとんど意味の無い質問に変化してしまっています。
揚げ足取りのような質問は、あまり聞きたくないですものね。
ということで、時間を延長して記者さん方の質問が続きましたが、知りたい情報に突っ込む質問は、ほとんど無かったように感じました。
まとめ
○ トヨタは、「不正」ではなく単なる「不備」だったと主張。
○ 国交省は、トヨタの主張を否定。国の求める基準の方が厳しい基準の場合もあるとした。
○ トヨタは、認証試験の在り方そのものにも、違和感をもっている。
あくまで私の印章なのですが、今回のトヨタの「不正」と言われるモノは、「言いがかり」に近いように感じました。
どちらかというと、国交省の言い分より、トヨタ側の言い分を信じてよい、信じてみたい気がしています。
ですが、新聞社の皆さんの質問力には、ちょっと疑問を感じました。
自分の意見の表明のような質問が目立ち、本当に知りたいことの確信を突く質問が少なかったように感じました。
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