【虎に翼】で、寅子の初恋の人、花岡悟(EXILE岩田剛典さん)が死んでしまいました。死因は餓死。
食糧難の当時、多くの人が【闇市】で売っている【闇米】を買って飢えをしのいでいました。
この行為は、食糧管理法違反として法律に触れます。
花岡は、食糧管理法違反とされた人々の裁判を担当していました。
そういう立場だったため、花岡自身は「自ら法を犯すことはできない」と考え、闇米を食べずに餓死してしまったのですね。
なんとも、悲しいお話です。
でも、餓死してしまうほど追い詰められていたのに、それでも、『闇米を食べる』という行為は、法律違反だったのでしょうか。
刑法で罰せられるのは、「構成要件に該当」し、「違法性がある」「有責」な行為
構成要件に該当するか
命の危険が迫っているとはいえ、『闇米を食べる』という行為は、違法です。
当時の『食糧管理法違反』の『構成要件』には該当します。
構成要件とは、
法の条文上に記載されている,犯罪が成立するための原則的な要件
つまり、罪に問うためには、「法律に書かれている」ことが前提と成増。
例えば、刑法なら、
刑法235条の窃盗罪は「他人の財物を窃取した者は,窃盗の罪とし,十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する」
このように「他人の財物を窃取」と、法律に明確に書かれていることが、窃盗罪として罪を構成するための大前提になります。
食糧管理法は、戦禍まっただ中の昭和17年(1942年)に制定されました。
一言で言えば、主食の米・麦・芋などを国が管理する法律です。この法律によって、個人が勝手に売り買いすることが違法となりました。
この法律に違反した場合、5年以下の懲役、もしくは、300万円以下の罰金という厳しい罰則が用意されていたのです。
このように『食糧管理法』という法律に、明確に書かれていたので、「闇米を販売・購買・食す」行為は、構成要件に該当し違法です。
ですが、国の管理する配給だけでは、足りるはずがありません。
人々は、『闇』で取引をしなかったら花岡のように死んでしまいます。
違法性があるか
刑法37条に『緊急避難』について書かれています。
刑事ドラマなどでもよく出てきますよね。
『緊急避難』である場合、『違法性は阻却される』というのが、一般的な理解です。
「食べなかったら死んでしまう」
これが『緊急避難」として認められなかったら、花岡さんだけでなく多くの餓死者が出てしまいます。
有責か
そして、その行為は『責めを負わせるべき行為だったか』が問われます。
小難しい言葉ですが『期待可能性の理論』というものがあります。
コトバンクは、以下のように説明しています。
犯罪行為の当時、行為者が適法行為をすることができたはずだと期待できること。期待可能性がなければ刑事責任はないという学説の根拠となる概念。(コトバンク)
自分が死にそうなとき、食べさせないと自分の子が死ぬと思われるとき、「適法行為(闇米を買わない・食べさせない)」などということは、期待できないです。
「死を目前にした人が」闇米を食べることは、違法とは言えない
ということで、花岡さんが体力を失い、死んでしまうほどの状態になった状態で『闇米』を食べたとしても、刑に問われない可能性が出てきます。
それにもかかわらず、花岡さんは「闇米」を食べませんでした。
なぜなのでしょうか。
ここは、花岡悟のモデル山口良忠さんの実際の行動から考えてみたいと思います。
弁護士の花岡悟(山口良忠)の場合は、罪に問われるか
花岡悟のモデル山口良忠さんのプロフィール
花岡悟のモデル山口良忠さんとは、どんな人だったのでしょうか。
・1913年・大正2年生まれ。
・佐賀県杵島郡白石町に生まれる。
・父親は、小学校教師。
・京都帝国大学・大学院を経て、高等文官試験司法科に合格・判事 裁判官。
・1946年 東京区裁判所の経済事犯専任判事
:主に闇米等 食糧管理法違反を扱う。
:同時に、自らは闇米を拒否
:衰弱が烈しくなる。
:「被告人100人を未決で待たせておくわけにはいかない」と休みを取らなかった。
・1947年9月1日 最後の判決を書く。
・1947年10月11日 栄養失調に伴う肺結核で死去 享年33歳
花岡悟(山口良忠)さんが闇米を食べたら、罪に問われたか
人に優しく、自分に厳しい性格
死を前にして、仮に花岡さんが闇米を食べたとしても、一般人ならおそらく罪を問われることは無かったと思われます。
では裁判官の花岡さんの場合はどうでしょうか。
33歳の青年の壮絶な生き様・ポリシーをもつが故に、花岡(山口良忠)さんは餓死しました。
『人に優しく、自分に厳しい』という侠気(おとこぎ)を、絵に描いたような人だったのでしょうね。
花岡(山口良忠)さんは、食糧管理法に違反した者に厳しく判決を言い渡す立場にありました。
そういう立場にある自分が、『闇米を食す』などと言うことは、できなかったのでしょう。
『緊急避難』は適応されない?
構成要件に該当しても、『違法性』の判断で、刑法37条の「緊急避難」に当たれば、罪に問われない可能性が高いはずです。
ですが、刑法37条の「緊急避難」の項目には、第2項がありました。
「前項の規定は、業務上特別の義務がある者には、適用しない」
(2項)
というものです。
この「特別の義務ある者」に、裁判官が含まれる可能性があります。
「当てはまるかどうか」が微妙だからこそ、花岡さんは、「闇米を食べること」を拒んだのだと思います。
「法の番人の立場にある者」は、一般人より厳しく法が規定される、という判断は十分に考えられます。
有責?
花岡さんが扱う食管法違反の裁判の多くは「有責性」つまり「期待可能性の有無」を争うものでした。
「そんなこと言ったって、食べなければ死んでしまうんだ。食べるなといったって無理だろう」
と多くの人が主張したといいます。
その主張を否定し、罪に当判決を自ら下してきたという事実があります。
そんな花岡さんが、自らは「闇米を食べないと死ぬのだから有責では無い」とは言えないのでは無いでしょうか。
ということで、花岡(山口良忠)さんが闇米を食べた行為が、「違法なのか違法で無いのか」を法で解釈した場合、一般人より厳しく判断され、有罪になる可能性も一般人より高くなると思います。
ですが、法で判断する以前に、
花岡さん(山口良忠)さんは、『闇米を食べる行為』を、『自らを有罪』としてとらえてしまったのではないでしょうか。
人に優しく、自分に厳しい人でしたから…。
まとめ
・『餓死してしまう』ほどの危機があるとき、一般人なら『緊急避難』として罪に問われない可能性が高い。
・だが、花岡悟(山口良忠)さんのように司法に携わる人には『緊急避難』が適用されない可能性が高まる。
・一番の問題は、花岡(山口)さん自身が『自分を許せない』と思ってしまう可能性が高いということ。
史実の山口良忠さん:【虎に翼】の花岡悟さんとは、ずいぶん違う
気力が衰えた花岡さんと、佐田寅子さんがベンチに座って会話する場面が描かれました。
寅子のお弁当は、曲がりなりにも米が詰まっています。
闇市で仕入れた米だったのでしょうね。
対して、花岡さんのお弁当は…。
これでは餓死しますよね、というもの。
ですが、史実の三淵嘉子さんと山口良忠さんは出会っていなかったと思われます。
そもそも、大学が違います。
花岡(山口良忠)さんは、明治大学(寅子の名率大学)ではなく、京都帝大を卒業しています。
【虎に翼】で描かれたような『初恋』の場面は、当然ありませんでした。
また、史実の山口良忠判事は、『最愛の奥様と2人の子供たちを本当に大切にしていた』事で知られています。
愛妻家だったのですね。
また、子ども達がひもじい思いをしないように、ほとんどを子ども達に与えていたのだと言います。
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