母性って何でしょうか。
『無償の愛』
では、父性とは?
『道を正す、厳しい愛』
こういう一般的な理解に対し、『海のはじまり』の第七話は、小石を投げ入れ波紋を広げましたね。
個人的理解ですけど、第七話は『母性とは何か』について、『津野くんの母性』と、『朱音の母性』を中心に、
『夏くんの母性』と『弥生の母性』を絡めて描いているように思えました。
津野くんの思い
フジテレビで放映中の『海のはじまり』の第7話が8月12日に放映されました。
第七話は、津野くん(池松壮亮)と水季(古川琴音)の過去が詳細に語られていましたネ。
津野くんは、これまで夏くん(目黒蓮)や弥生ちゃん(有村架純)に、ちょこちょこ冷たい言葉を投げかけていました。
夏くんに対して「僕のほうが悲しい自信があります」と言い放ったこともありました。
「なんにも知らないくせに水季(古川琴音)が死んだら急に現れて…。」とか、
「あんなに仲が良かった海ちゃん(泉谷星奈)もすぐなついちゃって」など、
夏君に対して、どうしてここまで否定的な感情をもっていたのかが、今回の放送で明かされました。
津野くんは、本当に献身的に水季と海に尽くしていたんだね。
こういう関係性だったら、水季の死後にポっと現れた夏くんに対して
『ボクの方が悲しい』
と、言いたくなるのもわかる…。
水季と津野くんの関係って、何だったのでしょう。
津野くんは、二人の世話をすることを通して、間違いなく水季に恋心を抱いていたと思います。
そして、海ちゃんに対する深い愛情も持っていたでしょう。
「家族では無いが、『家族に対する愛情』と似た愛情を二人に持っていた」、
これは間違いないでしょう。
水季は、そんな『津野くんの気持ちを利用している』ことを自覚していて、自分を『最低の女』と自虐的に言っていましたネ。
それでも、津野くんの気持ちを利用しなければ生きていけない…。
そんな水季に、先輩女性司書の三島芽衣子(山田真歩)(#山田真歩)さんが、
『いいんだよ。したくてしてんだから。』
『そうだよ。(津野くんは)見返りを求めていないでしょう。』
と言いました。
お姉さん的な優しさをもって、津野くんや水季を見守っていた芽衣子先輩のこの言葉が、第七話のキーワード。
そして、布石であり、脚本家なりの『答え』のような気がしてなりません。
『母性とは何か』
『母性は、女性特有のものなのか』
『男性に母性はないのか』
これらの大きな命題に対する脚本家なりの答えを、芽衣子先輩に語らせていたのではないでしょうか。
津野くんは、間違いなく水季や海ちゃんに、『無償の愛』を注いでいました。
弥生ちゃんや、水季には怒られてしまうかもしれないけど、『母性とは、【無償の愛】である』と言って良い気がしてなりません。
水季の海に対する接し方は、『無償の愛』であり、母性だと言い換えて良いのではないでしょうか。
津野くんの、水季や海に対する接し方も、同じ。
そして、朱音の水季に対する思い(接し方も、朱音なりの)『無償の愛』であり、母性なのだと思います。
朱音は、なぜ津野くんに『触らないで』と言ったのか
第七話には、朱音が水季が亡くなった後に、水季と海が暮らしたアパートの整理をする場面が描かれていました。
そこに、津野くんがやって来ます。
津野くんは、
「手伝います。海ちゃんの物はだいたい分かるので。」
と言いながら、整理を始めようとしました。
その瞬間、朱音は、
「触らないで。
家族でやるんで大丈夫です。」
と津野くんの手伝いを拒みました。
この瞬間、SNS上では、
『津野くんかわいそう。』
『朱音さん、それはないでしょう。』
などのコメントが飛び交いました。
朱音さんは、なぜ『触らないで』と言ったのでしょうか。
朱音さんは、津野くんの何に怒ったのか
朱音さんは、水季の葬式が終わった後に、津野くんに対して『ないがしろにしてごめんなさい』という電話をしています。
この『ないがしろ』というキーワードをとらえて、
『津野くんの煮え切らない態度に怒った。』
『津野くんが、本当の家族になる勇気を持てなかったことに怒った。』
などの分析をする方がおられました。
ですが私は、この説には納得ができません。
朱音さんも、津野くんが水季や海のために『見返りを求めず、助けていた』という事実は知っているはずです。
そんな、ある意味恩人である津野くんに、『あんたが家族になる勇気が無かったからよ。』と、怒るでしょうか。
朱音の、津野に対する嫉妬?!
水季は、朱音さんが42歳の時にやっと授かった子どもでした。
それこそ、朱音さんにとって何者にも代えがたい存在が水季だったでしょう。
朱音さんの存在すべてを代償にしてでも水季を守りたいという思いを持って、子育てをしてきたと思います。
大人になって、朱音に反攻するようになった水季にさえ、『無償の愛』を注ぎ続けています。
「私が死んでも、『私は水季の親』」という言葉は、朱音の本心でしょう。
そんな『無償の愛』を朱音は水季に注ぎ続けてきました。
そんな母性豊かな朱音が、死後の水季の部屋を整理しながら、
津野くんが水季に頼られていたこと、自分以上に『無償の愛』を注いでいたことを改めて感じてしまいます。
『私は、津野くんに負けてしまった。』
(津野くんの母性に負けてしまった。)
そういう思いが言葉にならない、渦のような感情となってこみ上げてきたのではないでしょうか。
死の間際、水季に『無償の愛』を注ぐのは自分でありたかった。
それなのに水季は、自分に頼らず津野くんを頼った。
(私は、負けた)
その思いが、朱音の
『触らないで』
という言葉だったのだと思います
この言葉は、朱音の津野くんに対する嫉妬。
朱音さんは、確かにひどい言葉を言ってしまったのかもしれない。
男性である私ですが、この言葉の裏に、母性豊かな朱音さんの悔しさが感じられました。
言われた津野くんも、かわいそう。
言った朱音さんも、かわいそう。
津野くんの夏くんに対する『さわらないでください』
朱音さんの『触らないで』は、第1話で、海が落とした色鉛筆を拾おうとした夏くんに対して、津野君が言った
『いいです。触らないでください。』
が、伏線だったわけですね。
夏くんにこの言葉を言ったときの津野くんの気持ちは、どんなだったでしょうか。
当然、『水季の苦しいときに、手を差し伸べなかった夏君に対する怒り』があったでしょう。
しかし、津野くんの思いは、そんな単純な思いだけでは無いはずです。
葬儀の数日前に、朱音さんから言われた
『触らないで!』
朱音のこの言葉が、津野くんの旨に深く突き刺さっていたはずです。
やり場の無い『怒り』
水季を失った『喪失感』
「今まで海ちゃんの面倒を見てきたのは自分だ」という『自負心』
そして、「こいつが海ちゃんの本当の父親か(うみちゃんを取られる)」という『恐れ』
「無償の愛」を与える対象を、これからも自分の手で守りたいという『母性』
これらの気持ちが複雑に混じっていたはずです。
そして、そのなかでもことさら強かったのが、
朱音が津野くんに感じた『私は、母性で津野くんに負けてしまった』
という感情の対比としての、『海ちゃんに無償の愛を注いできたのは自分だ。夏にその座を奪われたくない。(だが、本当の父親の母性には、おそらくかなわないだろう)』という一瞬の感情が、
『触らないでください。』
という言葉になったように思います。
夏くんの母性、弥生ちゃんの母性
津野くんは、水季と海ちゃんに『無償の愛』を注いできました。
これからは、自分の心にどうけじめを付けるかが大きな壁になっていくでしょう。
優しすぎるほど優しい津野くんには、この物語では描かれないでしょうが、新たな幸せ・出会いが訪れてほしいものです。
夏君は、実の父親。
この後、海ちゃんにどう『無償の愛』を注いでいけるかを模索していくことになりますネ。
問題なのは弥生ちゃん。
『母親になりたい。』という願いをもつ弥生ちゃん。
しかし、海ちゃんと血のつながりの無い弥生ちゃんには、『自分は外野だ』という意識がつきまといます。
そんな弥生ちゃんが、自分の母性に素直に向き合えるようになるきっかけは、あるのでしょうか。
おそらく弥生ちゃんが中絶したときに病院に書き残したメモと、そのメモを読んだ水季が病院の人に「このメモを書いた人(弥生ちゃん)に残したメッセージ」になるのではないかと予想します。
だって、海ちゃんを生もうと水季の心を動かしたのは、弥生ちゃんの言葉ですものね。
言うなれば、「海ちゃんがこの世に生まれたのは、弥生ちゃんの言葉によって」です。
このあたりが、どう描かれるのかが楽しみです。
まとめ
母性が『無償の愛』であるなら、女性特有のものではない。
男性にも『無償の愛』は、存在する。
また、血のつながりの無い『無償の愛』も存在する、と…。
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