近年、中国による領空侵犯という事案が発生した。こうした事態に、日本は自衛隊によるスクランブル発進で対応しているが、領空侵犯機に対して警告射撃や強制着陸といった強硬手段に出た場合、現場のパイロットは本当に国際法的に正当化されるのだろうか?
自衛隊は国際法上の「軍隊」ではないため、パイロットは深刻なリスクにさらされている。
この点に関して、総理候補者の9名全員が、憲法への自衛隊明記を掲げている。
では、誰が総理になったとしても大丈夫なのだろうか。
とんでもない。
石破茂氏は、党として決めている9条の2を設けるという事では無く、国防軍を創設するという別項目を設けるという、岸田総理が示した論点整理とは異なる持論をもっているのだ。
ただ、総裁選に臨むに当たり、「優先事項は党で決定したとおりだ」と述べ、岸田首相が示した論点整理(自民党としてここまでは、ここまで確認していたとする事項)を尊重すると述べてはいる。
石破氏の、「論点整理を尊重する」発言により、確かに9人ともに横並びになったかに見える。
だが、どれだけの人が石破氏のこの発言を信じられるだろうか。
さらに、問題がある。
自衛隊を憲法に位置づけて合憲にするだけでは、問題は解決しない。
合憲にするだけでは無く、自衛隊を「行政機関」ではなく、「軍事機関」として位置づける必要があるのだ。
自衛隊は、軍事機関としての軍事組織として位置づけられないと、国を守ることがとても苦しくなってしまう。
自衛隊は「行政機関」か「軍事機関か」
例えば、領空侵犯機が日本の領空を侵犯し、自衛隊のパイロットが威嚇射撃を行ったとする。
もし、事後的に「正当防衛」が認められなければ、パイロットは国際法上の「業務上過失致死罪」などの罪で逮捕される可能性がある。
なぜこのような事態が起こるのか?
それは、自衛隊が国際法上は「軍隊」として認定されていないため、自衛権の行使が認められない可能性があるからだ。
国際法は、「軍隊」による武力行使のみを自衛行為として認めている。
自衛隊が国内法上は「行政機関」と位置づけられてしまった場合、国際法上ではその行為が「軍隊」によるものとみなされず、パイロットは国内法により罪に問われる可能性があるのだ。
「行政機関」は国内法、「軍事機関」は国際法
もし、自衛隊が行政機関として憲法に位置づけられてしまったら、自衛隊は国内法に縛られて行動することになる。
そうなると、先の領空侵犯機に対峙するとき、現場のパイロットは、「自分の行為は、国内法の『正当防衛』にあたるかどうか」に縛られて行動する。
だが、自衛隊が軍事機関なら、現場のパイロットは国際法の『自衛権』に従った行動を行うことになる。
この違いは、大きい。
国内法の正当防衛に縛られる自衛隊
もし、自衛隊が国際法上の「軍隊」ではなく、警察と同じく国内法に基づく「行政機関」と位置づけられてしまった場合、領空侵犯機にスクランブル発進をしたパイロットは深刻なリスクに直面する。
具体的な例として、先日の領空侵犯をした中国機を想定してみよう。
中国機が日本の領空を侵犯したとき、「なんで領空侵犯機に対して、威嚇射撃をしなかったのか」とか、「強制着陸させなかったのか」などの意見をもった方はいなかっただろうか。
国内法に縛られる日本の自衛隊のパイロットは、『正当防衛』が成立していなければ、相手機に対し何も出来ない。
最終的に『正当防衛なのか、そうではないのか』、少なからず判断の責任をパイロット自身が負うことになる。
仮にそのパイロットが相手機を撃った場合、事後に『正当防衛が認められない』事になると、そのパイロットは犯罪者となってしまう。
こういうリスクがあっては、おいそれと行動できない。
あれやこれや考えている間に相手方が撃ってきたら、このパイロットは命を落とすだろう。
自衛隊が、国際法の自衛権に基づいて行動するなら
もし自衛隊が行政機関では無く、軍事機関(軍事組織)として憲法上に位置づけられたなら、自衛隊は、国際法によって行動することになる。
この場合、領空侵犯機への対応は『自衛権』の行使となり、仮に侵犯機に発砲したとしてもパイロットが罪に問われることはない。
自衛隊を憲法に位置付けるだけでは、問題解決にはならない。
公明党が主張する憲法72条や73条に自衛隊を位置づける案は、実は自衛隊を「行政機関」として位置づけようとする案だ。
もし、この案の通りになったとしたら、自衛隊は国内法に縛られることになる。
この場合、国際法上の「軍隊」としての地位は得られ無い。
現状の曖昧な自衛隊の扱いなら、パイロットは国際法上のグレーゾーンに置かれた状態だ。
だが、「自衛隊が行政機関」として位置づけられたなら、パイロットが罪に問われるリスクは増大するだろう。
自衛隊が国際法上の「軍隊」として認められるようにするにはどうすればいいのか?
現状、自衛隊の法的根拠は憲法に明記されていない。そのため、自衛隊が国際法上の「軍隊」として認められるためには、憲法改正による自衛隊の「軍隊」化が議論されるべきである。
しかし、石破茂氏などは、岸田総理が示した論点整理とは異なる持論を展開してきていた。
にわかに、自説を引っ込めたかに見えるが、その真意は測りかねる。
総理候補者9人全員が憲法への自衛隊明記を掲げているが、その内容は必ずしも一致していないだろう。
おそらく、「自衛隊を軍事機関として位置づけることの大切さ」を理解しているのは、高市さん、小林さん。
理解しているだろうと期待しているのが、さらに加藤さん、茂木さん、もしかすると上川さんもある程度は理解していると期待したい。
石破さんは、理解していて自民党案に後ろから矢を射ている印象が否めない。
小泉さんなど後の候補者は、おそらく理解していないように思える。
まとめ:自衛隊の法的根拠の明確化が望まれる
日本の平和主義と防衛力の強化という相反する課題を解決するためにも、自衛隊の法的根拠を明確化し、国際的な正当性を獲得する必要がある。
そのためには、憲法改正による自衛隊の「軍事機関」化が議論されるべきである。しかし、その議論は、党利党略ではなく、派閥の論理でもなく、日本の国益を第一に考えて進める必要がある。
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